メイプルストーリー

おしゃべり広場

キャラクター名:
獣狸
ワールド:
ゆかり

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創作物語

雪だるまを作ろう 日付:2017.01.08 20:29 表示回数:653

朝、目を覚まして、なんだか随分空気が冷たいなと少年は感じた。レジスタンスの本部から出ると、その正体はすぐに判明した。
「ルーティ、いつの間にエーデルシュタインはエルナスになったんだ?」
「何バカな事言ってるんだよゼノン。そんな訳ないでしょ」
「だって辺り一面雪景色……」
 そう、冷気の正体は雪。少年の目の前には、機械仕掛けの町を真白に彩った銀世界が広がっていたのだ。雪は町を白く染めても尚、静かに降り続いている。
 その光景に実にとんちんかんな事を尋ねてきて、ぱちぱちと呆けた顔で瞬きを繰り返す少年に、ルーティはため息をついた。
「前もエルナスに行った時説明したけど、雪っていうのは雨が凍ったもので、今みたいに寒い時期、つまり冬の時期に降りやすいんだよ。条件が揃えばエルナスじゃなくても、どんな所にだって雪は降る」
 今日はたまたま天候と気温がうまい具合に重なったんだね、そう言ってルーティは雪に覆われた地面に足を踏み出す。雪はサクッと小気味の良い音を立てて、彼女の足跡を作り出す。
「足下気をつけて」
 少年はこくりと頷いて、彼女の作り出す軌跡のあとを追った。降りたての雪はとても柔らかくクッションのようで、これならば足を滑らせる事も無いなと忠告を無視していつも通りの足取りで歩く。
 それにしても雪というものは、これほどまでに景色を一変させてしまうのかとゼノンは白い息を吐く。いつも見ている町並みがまるで別物で、人々の姿さえ違って見える。機械である自分の身はあまり寒さを感じないが、すれ違う人はいつもより厚着をしていて、コートにマフラー、耳当てに帽子と、顔の大部分が覆われていて誰が誰だかわかったものではない。
 そうやってきょろきょろと視線を動かしていると、ふと少年は気になるものを見つけた。丸いものが二つ重なっていて、上の丸はまるで顔のようになっている設置物があったのだ。あのようなオブジェがこの町にあっただろうかと首を傾げる。
「ゼノン、どうしたの?」
「いや、あれは何かと……」
 ついてこない足音を不審に思い、振り返るルーティ。立ち止まる少年の指さす先にあった光景に、ああ、と納得する。
「あれは雪だるまだね」
「雪、だるま……?」
「雪を固めて作る簡単な像だよ」
「…………」
 雪だるまと聞いて、ゼノンは何か引っかかりを覚えた。そんな単語を聞く機会などなかったはずなのに、初めて聞いた気がしない。ずうっとずうっと昔、『ゼノン』が生まれる前に聞いたような――。
 凍り付いた水面へ投石されたかのように、少年の心は揺れた。そして、沸き上がってくる思い。その思いを少年はするりと口にした。
「ルーティ、私も雪だるまを作りたい」
「……え?」
 ルーティは自分の耳を疑った。ゼノンは今なんと言った?
「どうやって作るんだ?」
「いや、えっ、い、今聞き間違いじゃなかったら、雪だるまを作りたいって言った?」
「うん。作り方を知りたい」
「作り方を知りたいって……そう言われてもボクも実際作った事は無いし……」
「そうか……」
 わからない事を伝えると、少年は無表情ながらもかすかに残念そうな顔を見せる。普段少年が感情を見せる事がない事を思うと、ルーティはちくりと心が痛んだ。自分が知らないのならまわりの誰かに聞けばいいものを、ルーティにはそうする事ができないほど少年の顔から目が離せなかった。少年も、赤の他人に頼るという事を知らなかった。
 そうして暫く雪の降る中佇んでいると、何者かが意思を持って背後に迫る気配がした。敵意は感じられない。一体誰だろうと振り返ると、すぐ後ろにいたのはデーモンだった。
 デーモンは少年たちに問いかける。
「どうしたんだ二人とも、こんな寒い中ずっと立って」
「……雪だるま」
「ん?」
「雪だるまを作りたかった、けど作り方がわからなくて」
「ほう」
 理由を聞いて、デーモンはすぐに興味深いと思った。感情や人らしい欲求が死んでしまっていると思われた機械の少年が今、子供のような遊びに興味を抱いて、それをしてみたいと望んでいる。
 しかも、作り方がわからないと顔に感情まで露わにして。
 庇護欲を擽られた彼は、ここはひとつこの少年に手を貸してやろうと思い立った。
「なら、一緒に作ってみるか?」
「え?」
「作り方わかるの?」
「昔、弟とよく作っていたからな。童心にかえるのもたまには悪くない」
 柔和な笑みをデーモンが見せると、少年は暗い色を消して、堅苦しく「宜しくお願いします」と頭を下げた。デーモンの笑みは、苦笑いに変わった。


 その日、エーデルシュタインの景色に、スティジの羽の生えた雪だるまと、古いエナジーソードの刺さった雪だるまが加わったのだった。

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