メイプルストーリー

おしゃべり広場

キャラクター名:
DarasuK
ワールド:
かえで

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創作物語

あまねく燃えるトリカゴのなかで 11 日付:2017.08.22 08:46 表示回数:204

それでしばらく間を置いた。熱が冷めて冷静に弁ができるぐらいの時間を、建築に没頭することで過ぎるよう務めた。親方の言う通り、ひたすらに頑張っていればコトの見えかたも変わってくるもので、胸は埋まらないものの細かいコトの考えかたが自分のなかでポツポツと変わっていくのを感じられる。
 そしてマキハの家を訪ねて、話がしたいと持ちかけた。
 初見こそ断られたが、野暮な話を持ちかけにきたわけじゃあないと付け加えると、僅かに耳を貸してくれた。それで僕は話を続ける。
「キワタのことで話がしたいんだ」
「何を今さら」
「熱を冷まさなくっちゃあと思ったんだ。よく、聞いてほしいと考えてるんだ」
「そうも言うなら聞くけれどね君、くだらない話なんてもらった日には金輪際の縁を切ると考えてもらうからね」
 時間が経っても容赦のない、縁を切るだとかの言葉がひどく胸に突き刺さったが、そこに触れることはしまいと思った。いらぬ言葉は波こそ立てても良いことは呼ばないと考えを改め学んでいたからだ。
「わかってる。元よりそういう覚悟だから、半端なことはクチにしない」
 それで、トリカゴのことから話に入った。
 マキハは25歳を9月9日をもって命を絶つ運命にある。だがキワタはその時点ではまだ5歳であり、親戚にお願いするにしたって、あまりに若すぎると指摘した。その点はマキハも懸念していたらしく、だからキワタの養育はそこから僕に任せてほしいと頼んだ。
「まさか。そんな話をしたかったの?」
「真剣なんだ。功名心だとかじゃあないんだよ」
「図々しいとは思わない? ズルいことだとは考えない? 君はマヌケだ」
「君は僕にたくさんのことを教えてくれた。だから僕も、キワタにたくさんのことを遺したいんだ。それまでの面倒を見たいんだ。それは君からの評価がほしいだとかそんなのは全くなくて、真剣な気持ちなんだよ」
「いや、そんなのは……」
「これが君やキワタに迷惑な話なら元より話してない。僕のなかでよく考えて、僕が良き父であれることを約束できるならそれが一番いいじゃあないかと思ったから話したんだ。約束するよ、僕がそうすることを君はちょっとだってありがとうだとか思わなくていい。だから僕に任せてほしいんだ」
 あんまり食ってかかるものだからマキハは鳩が豆鉄砲でもくらったみたいな顔をして、ただただ驚いていた。それで、はあ……と息をつく。
「わかった。でもこれだけは言っておくよ。私が君のことをまた好きになったりだとかは、絶対にないからね。それは私がそういう性格だからしかたのないことなんだ。もうこの歳だから誰とみだらに耽ったりするつもりもないが、だからって君を好きをするになるなんてこともない。君がそんな性格だったから私は惚れたけど、そんな性格だからこそもう惚れたりなんかはしないのさ」
「よくわかってるよ。話を聞いてくれてありがとう」
 そういう経緯があって、トリカゴのあとは僕がキワタの面倒を見ることとなった。仕事と育児を兼ねるのは相当にキツいだろうが、そんなことは承知のうえだ。
 最初は慣らしということで月に数回、僕がマキハの家を訪れてキワタと過ごす時間をとった。もちろんマキハにいらぬちょっかいなどは出さずに、やるべきことにごくごく徹した。キワタはとぉと(父さん)とまた会えたと喜んでいて、マキハはそのことを複雑そうに受けとめていた。
 何だか元通りではないとはいえ、こうした形が生まれたことが嬉しくって、僕は涙をこらえるので懸命になる。だけれど、それは油断すればまた形を変えて傲慢を作ることだと思って、ただ純粋にあるべき父の姿を志すよう考えていた。
 そのころに親方が40歳における例の首切りによって命を全うし、次期として僕が組の親方を務めることとなる。親方に諭されてから仕事も復調し、引き継いだ際は満場一致で僕が選ばれる運びとなった。ただ、今の僕は傲慢だったりになどもうならない。恩師を失った悲しみに暮れたが、それで落ち込むことはせず、ならば親方となった自分はどうすべきか、と考えることに徹していた。
 そして僕が23歳、マキハが25歳、キワタが5歳となった8月。トリカゴを翌月に迎えるなかで、マキハは言った通りに好意などは微塵も見せないながら、僕のスタンスをそれなりに信頼してくれたようで、最後の1ヶ月は共に家で暮らすことを提案してくれた。
 凄く嬉しい話だったが、そうしてかつてのように家で暮らしていると、翌月にはトリカゴの炎がマキハを炭にしてしまうのかと思い、ひどく悲しい気持ちに晒された。

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