森和はその時、普段と変わらずに保安庁で夜勤をしていた。
溜まりに溜まってしまった始末書をせっせとボールペンで書いていた頃、部屋の外から何か物音が聞こえた。
他の保安官のコツコツを歩く音か、雑談の声かと最初は思った。
しかし少し経つと歩く音がドカドカと走る音に、雑談の声から叫び声に変わった。
それと同時に警報の音と銃声、何かが斬れたような音も外から聞こえてきた。
森和「何事だ!?」
森和は始末書を書くのをあとにし、大剣を手に持って廊下へ出ようとした。
ドアの方へ向かおうとすると、突然ドアが開き、一人の少女が入ってきた。
服装の黒と、雪のように輝く長い銀髪のコントラストが目立つ少女だ。
黒い高LV盗賊の装備を身に纏い、両手に血に塗れた短剣を持っていた。
短剣の片方はシャムシール(盾)だった。
彼女の長くて綺麗な銀髪も血に染まっていた。
レイラ「あなたで最後ね」
銀髪の少女は狂気的な笑みを浮かべて、血がついた短剣を舐め、唾を吐いた。
レイラ「まったく、ここはヘマな保安官ばかりね。アハハハハハハ!」
少女は首を上げて高らかに笑った。
森和は少女をじっと睨みつけ、大剣の剣先を少女の方へ向ける。
あの子は何者なんだ?なぜここを襲ったりしたんだ?森和は思考を巡らす。
少女の表情とさっきまでやってきた行動から人間とは思えないほど酷い猟奇性を感じられる。
それとあの少女はどこかで見た事あるような気がした。
しかし思い出せない。いつ、どこで、何がキッカケで出会ったのか思い出せない。
いや、むしろこれで初対面かもしれない。
保安官「も、もりかずさん・・・」
少女の背後に一人の保安官が姿を表した。頭から血を流し、右手で負傷した左肩を抑えている。
保安官「は・・やく・・にげ・・てっ!」
保安官が痛みを堪え、森和に逃げるように促した。
銀髪の少女は苛立ったのか、保安官の頭に目掛けて短剣を投げた。
保安官は断末魔の声を上げる暇もなくあおむけに倒れた。
森和「貴様!何者だ!ここへ何しに来た!」
森和は少女に向かって叫ぶ。しかし少女は高らかな笑い声を上げたまま質問にも答える素振りを見せない。
森和「くそっ!よくも俺の同僚たちを!!」
森和は少女に向かって突撃し、大剣を振り下ろした。
だが少女は笑うのを止めた途端、森和の剣撃を体スレスレのところで避けた。
少女の顔は笑顔から怒りがこもった顔に変わった。
レイラ「ちょっと・・・当たったらどうするのよ・・・」
顔だけではなく、彼女が発する言葉にも怒りが込められていた。
彼女は攻撃を外されて硬直している森和の体を短剣で斬った。
森和の体から血が噴き出した。森和は思わず声を上げた。
少女は間髪もなく森和の体を切り刻もうとした。
だが森和はただやられてばかりの男ではない。
彼は冒険者時代に幾つもの修羅場をくぐって来た男だ。
華奢な少女の連撃にうろたえるなどルーキー冒険者がやることだ。
少女の短剣を一撃ずつ正確にかわす。
普通の人間から見たらマッハ級のスピードだが森和にとっては充分な速さだ。
大振りの剣を持ちながらも俊敏に動ける身体能力を森和は培ってきたのだ。
森和は攻撃をひたすら避け続ける。次に打つ手を考えながらただひたすらに避ける。
森和の背中が壁に当たろうとしたとき、森和は大剣の柄を握り締め、反撃に出た。
一般人には目視すら出来ない剣撃を森和はその盲点を見つけ、すかさず攻撃した。
森和の大剣がレイラを斬りかからんと襲いかかった。
レイラが持っていた2本の短剣は森和の大剣の衝撃に耐え切れず、折れた。
レイラは観念したのか、地面に膝をつけぺったりと座りこんだ。
攻撃する手段をなくしてしまい、悄然としていた。
森和はレイラを捕縛しようと腰にかけたあった手錠を手に取り、彼女の元へ駆け寄った。
森和「そこまでだ。武器なしでは大剣を持つ俺とは戦え――。」
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