ハルトは見た。冒険者として共に冒険し、戦ってきたかつての仲間を。そして血に塗れた短剣で今の親友を切り刻んでいるところを。
ハルトは見た。今の親友が、瀕死の状態に陥っているところを。そしてかつての仲間から拷問を受けていることを。
ハルトは一瞬自分の目を疑った。
まさか・・・こんな形で再会するなど思っていなかった。
本当なら平和なときにそのかつての仲間と再会し、今の親友を紹介したいところだった。
レイラ「ハルトさん・・・?」
レイラは突然現れたハルトを見てキョトンとした。
ハルト「お前、まさか・・・レイラか?レイラじゃないのか?」
レイラは黙ったままハルトを見つめる。
ハルト「よかった・・・あの時以来姿を見せなかったもんだから――!?」
ハルトは咄嗟に上半身を後ろへ反った。
短剣が、レイラの短剣がハルトの体を貫こうとしたのだ。
ハルトはレイラの突然の行動に動揺した。しかしすぐに状況を把握した。
ハルトに対して激しい殺意を向けていることを。
レイラ「ようやく貴様を思う存分切り刻める・・・ハルトォ!!」
ハルト「レイラ!一体何を!?」
ハルトはレイラの胸につけられた勲章を目にした。
ハルトはその勲章を見たことがある。政府軍の佐官クラスの人間がつける勲章だ。
それにレイラが向けた殺意に満ちた目。これで大体事情が分かった。
ハルト「貴様!政府軍に魂を売ったな!」
ハルトがそう言うとレイラは笑いながら答えた。
レイラ「だからどうしたというの?」
ハルト「貴様が何故、同じ冒険者の虐殺に加担しているんだ!」
レイラ「同じ?ふん、あんなやつらと一緒にしないでよ」
そう言いながらレイラは血に塗れた短剣を舐めた。
レイラ「冒険者なんてどいつもこいつも屑ばっかりだわ!自分の事しか考えず、仲間を平気に裏切っては新しい仲間を作る。挙句の果てにルールというルールを何一つ守ることもできず、周りに悪い影響しか与えない屑なんて死んで当然よ!」
レイラは怒りに満ちた言葉を吐いた。
レイラ「だから私たちで掃除してやるんだよ!!メイプル界という樹木を巣食う害虫どもを駆除してやるんだよ!」
レイラの言葉がだんだんと荒れてきた。
ハルトはレイラの変容ぶりにただ呆然とするだけだった。
たった1年でここまで変わるなんて、一体何があったのだと思った。
ハルト「だからって、何故俺を殺そうとするんだ!俺は現役の頃ちゃんとルール守ってたし、今はもう冒険者とは縁がない!」
レイラ「あんたは別よ!あんたはあいつらよりも重い罪を犯した!」
ハルトは頭の中から罪を犯した記憶を探し出した。
すると一番思い出したくない記憶が出てきた。
ハルトのトラウマの原因となった記憶だった。まさかレイラはそのことを!?
ハルトが答える前にレイラは言葉を淡々と続ける。
レイラ「私と、あんたのかつての仲間、そして関係のない人たちを殺し、挙句私を見捨てて逃げた!」
ハルトは急所を突かれたような胸の苦しみを感じた。
ハルト「それは・・・俺の力が・・・」
レイラ「もうあんたの話なんか聞きたくない!この裏切り者め!」
ハルトはその場で膝を落とし、頭を抱え込んだ。
今まで封じ込めていた過去が脳裏をよぎり、もがき苦しんでいた。
オリベイラ「どうなってんだこりゃ・・・」
一番先に保安庁にたどり着いたオリベイラの小隊の皆は絶句していた。
保安庁を守っていた兵士達が無造作に倒れていた。
しかし兵士たちの体に傷跡らしきものは見えなかった。
それどころか辺りに血の一滴すらなかった。
何かの催眠術にかかったのか?と彼らは推測したが、催眠術にかかったなら室内の調度品がこんなに散らばるはずがない。
瑠奈「敵はもう他の誰かが片付けちゃったんですかね・・・?」
オリベイラ「いや、まだ内部に敵が残っているのかもしれん。各自、保安庁内を探索しろ!」
オリベイラが部下たちに命令した。
オリベイラ「探索が終わり次第、ここに集合!それと生存している保安官や隠れている市民がいたらそいつらも連れてこい!では、散れ!」
海賊たちは四方八方に散らばった。
|