宿の個室に、一人。
「・・・格好つけて、あんなこと言ったけど。
本当に、海賊なんて相手にして大丈夫なんだろうか・・・」
自分の言ったことを少し後悔しつつ、アルフレートは剣を鞘から抜いてみた。
この剣は父が遠征に出かける前に使っていた剣で、相当古いものらしい。
父曰く「二つとない伝説の武器」だが、さすがにアルフレートも信じていなかった。
ただ、柄と持ち手の部分に施された、薄汚れた紅葉のレリーフは素晴らしいものだ。
きっと相当古いものなのだろうが、その刃には錆びが見られない。
・・・剣を握ってみると、なんだかアルフレートは勇気が沸いてきた。
「父さんの形見のこの剣があれば、きっと大丈夫なはずだ・・・
きっと、大丈夫・・・なはず・・・がんばれ、がんばれじぶ・・・」
剣をそっと鞘に戻し、ベットに横になるアルフレート。
横になってからすぐ、アルフレートは深い夢の世界へと沈んでいくのだった。
・・・だが、何かがおかしい。
今、自分は夢を見ているはずだ・・・この胸のざわつきは、この、気配は。
アルフレートは夢の中で、尋常でない気配を感じていた。
徐々に気配のモトがアルフレートに近づいていく感覚、しかし眼が開けられない。
そして「それ」がアルフレートへと覆いかぶさり・・・
「うわあッ!!」
そこで、アルフレートは眼が覚めた。
・・・だが、そこは宿の個室ではない。
見渡す限り森が続き、自分の丁度真上には巨大な紅葉の樹がそびえ立っていた。
紅葉の樹の周りには赤い葉っぱが積もり、赤いカーペットのようになっている。
そして、温かく、優しい、先程とは真逆の間隔。
「さっきからどうなってるんだ・・・これは夢のはずだ!」
頬を自分でつねってみても、ただ痛いだけ。
・・・これは夢のはずだ、夢のはずだ、パニックになり、頭の中に思考が回る。
「これは夢ではありません、あなたは選ばれたのです」
慌てているアルフレートの前に、白く輝く女性が現れる。
地面から数十cmほど浮き、白い長絹の身につけ、白金のような長髪の持つ姿は、
おとぎ話に出てくる女神そのものであった。
優しく、温かみのある声でアルフレートへと語りかける。
「だ、誰!?」
「私は貴方を守る存在、ただ、それだけです」
「守る存在?何言ってるんだ!
それよりも、ここは何処?何故僕はここに居るんだ!」
「・・・貴方は選ばれたのです。
そう、貴方の持つ、その紅葉の剣に・・・
ここは紅葉の剣の領域、剣の精神内と説明すればよいでしょうか」
剣に選ばれた?精神内?自分は魔法にでもかかっているのか?
そして、アルフレートに女性が優しく事を語り始める。
・・・ここから、物語は始まる。
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