看護婦さんに彼のことを聞いてみた。
「名賀 宮内さんって、今どうしていますか?」
我ながら突然何を言っているんだと思うようなド直球なきき方だったと思う。けれどそんなことは吹っ飛ぶくらいにその後の答えは予想外だった。
「名賀さん?彼はお亡くなりになられましたよ」
は……?ナに言ってんだこいつ。この間入院したばっかりだったんだろ?もう死んだ?そんなわけ、あるかよ。
「七年も出たり入ったり繰り返して、それでも結局……」
それ以上看護婦は何も言わなかったし、言ったとしても私はそれ以上聞かなかった。私は宮内の病室へ直行する。
何でこんなにも自分があせっているのかはわからなかった。確かに知り合いが一人死んだのだからあせってもおかしくはないのだけれど、知り合いと言えるほど知り合ってもいなかった彼の死にこれほどまでに取り乱す意味もないと思う。けれど私は事実として取り乱していた。
『コンコン』
控えめなノックで扉を開ける。そこには宮内の姿はなく、代わりに静かに病室を整理する女性の姿があった。
「あなたが昧さん?」
「はい」
「始めまして、名賀 宮内の母です」
「始めまして」
宮内の、母親。ということはということはということは……。
「お悔やみ申し上げます」
社交辞令的な言葉が口をつく。そんな言葉に何の意味もなく、何の慰めにもならないというのに。
「昧さん、短い間でしたが、宮内の話し相手になってくださってありがとうございました」
深々と頭を下げられた。彼女の真下の床に、ぽつりぽつりと涙が降り注ぐ。
「宮内は昧さんのこととても好きだったようで、昧さんが退院する前日に告白するんだ、って言って……」
その先の言葉はもう聞き取れなかった。嗚咽がかき消して、ぜんぜん聞こえなかった。でも、そんなことはどうでもよかった。
「どうして彼は私のことを知っていたんですか?」
気になったのはそこだけだった。七年もの長い入院生活で私を知るすべなどなかったはずだ。どうして彼は私という存在に恋をしたのだろう。
「それは、私にもわかりません」
そういって、宮内のお母さんは哀しそうに笑った。その笑顔は宮内とそっくりで、私の頬を一滴の涙が伝った。
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