轟雷の鳴り響く空の下。
雨振り注ぐその中で、私は一人立ち尽くしていた。
青年が鉾を振り翳すと同時、雷鳴が響き、その人は姿を現した。
白い魔導服を纏った老人、ハインズが。
轟雷の雨の下、絶望はさらに強く
───春風 凛
突然襲われそうになった私の目の前に、ハインズが現れ、それを守った。
本当に突然の事だったので、私は何が何だか分からなくなり、その場に立ち尽くす他なかった。
「大丈夫じゃったか?」
ハインズが振り返りそう言った。
「は…はい、おかげ様で」
私は彼に礼を言うと、あの仕事の事を思い出しすぐに通信機を取り出す。
そして連絡を取る為にアドレスから炬燵さんのところを探し出した。
探し出した、とは言うものの中には炬燵さんの物しか入っていなかったが。
「ハインズ…貴様ァ!」
水晶が怒りを露わにし叫んだ。
「おや、お主。そんな言葉遣いじゃったかの?」
そう言うと同時、ハインズの手から炎の魔弾が放たれた。
「チィッ!」
水晶はそれを避ける為に後退する。
「おーい!何があったんだ!?」
そこに竜也が駆けつけてくる。
「おい、凛!」
「ちょっと静かにして!」
私は通信機で連絡を取ろうとしていた為、五月蠅い竜也を静止すべくそう言った。
竜也はそれがショックだったのか黙り込んでしまった。
プルルル…
プルルル…
通信が中々繋がらない。
私が困惑していると、水晶の下に一人の少女が駆けつけてきた。
「ちょっと兄貴!何やってるの!」
少女はそう叫びつつ水晶の裾を引っ張った。
「…今日の所はここで退く事にしよう。だが忘れるな!私は政府を必ず倒す!」
そう叫んだ後、水晶は懐から一枚の紙を取り出した。
それは帰還の書と呼ばれる物で、近くの村や町まで瞬間移動する事の出来るアイテムであった。
水晶がそれを地面に叩きつけると、魔法陣が出現し、水晶ともう一人の少女は光に包まれて姿を消すのであった。
「ふぅ、何とかやり過ごせたのぉ」
ハインズがぼやいた。
プルル…ガシャ。
丁度その時、通信が繋がった。
「もしもし?炬燵さん?」
私は通信機の画面に向かいそう言った。
しかしそこに映っていたのは炬燵さんではなくその妹、狼さんであった。
『…凛…か…』
「狼さん?炬燵さんは?」
私は狼さんに訊ねた。
すると狼は画面をずらし、床の方を映した。
どうやらどこか建物の中にいるらしい。
そこに映っていたのは、血を流し倒れる炬燵さんであった。
「え…炬燵…さん…?」
私は硬直した。
何故炬燵さんが血まみれで?
あんなにも強い人がどうして?
『…殺られたんだ…ブラックウィングに』
その時の狼さんは会った時の凛々しい姿など欠片もなく、ただただ泣きわめく子供のように、悲痛で、哀しい顔をしていた。
『雨の中…姉貴は…』
その時私は、雨の中、血まみれで倒れる炬燵さんを想像した。
ガタン
私の中で何かが崩れる音がした。
そして、封印していた記憶の扉が開かれるのであった。
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