暗い暗い森の中、振り続ける雨が頬を濡らす。
とにかくここから抜け出さねば。
俺は誰かの手を握る。
それを俺は妹として認識していた。
だが、狼ではない。
ならばこいつは誰なんだ?
忘れた記憶、欠片と雫”玻璃”
───炬燵犬
確かに俺はこいつを知っている。
だけど知らない。
何故?
疑問だけが渦巻いていた。
「ハァハァ…」
とにかく急いで逃げなければ。
それだけが頭の中に伝わってくる。
しかしここは一体どこだ?
分からない。
「お姉ちゃん…」
俺と共に逃げている誰かがそう言った。
俺は誰かの顔を見る。
それと同時。
世界が一気に崩れ落ちた。
*
気づくと俺は牢屋のようなところに何人もの人達と共に閉じ込められていた。
これもまた知っている場所のはずなのに知らない場所であった。
だが、そこがどのような場所なのかは理解出来た。
”キメラ研究所”
人とモンスターとを合成し、歪なる存在を生み出す場所。
俺と狼にとってそこは忌まわしい記憶しか残らない、辛い場所であった。
俺が知っているのはスリーピーウッドにある研究所だが、どうもここは勝手が違うようだった。
「シビーユのお姉ちゃんどっか行っちゃうのー?」
女の子の声が聞こえた。
「えーっ?どこ行くってんだよー?」
…何…だと…?
俺の口が勝手に動き、そう言った。
一体何故?
そこに来てやっと俺は理解した。
ああ、これは夢何だと。
いつの日の記憶かは分からない。
だが、確かにそれは俺の記憶であり、欠片であった。
「ごめんね・・・本当にごめん」
シビーユと呼ばれた女の声が聞こえた。
俺はその女を見つめていた。
…何だろう。
俺にとってその人は母親のように感じられた。
とても温かい、そんな女性に。
シビーユは泣いていた。
何度も、何度も。
ごめん、と言って。
「ぅぅ?お姉ちゃんーあまりシビーユお姉ちゃんを困らせちゃダメー」
さっきの誰かに似た声が聞こえた。
俺はその誰かの方に振り向こうとした。
それと同時。
世界は再び崩れ落ちた。
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