「おお、すまない…解毒の珠を持ってきてくれたな、良くやってくれたな」
≪俺様達に任せておけば神だろうが化け物だろうが一門打尽だゼ！≫
『といっても、ことの発端は私たちが騙されたのが悪かったよーナ…』
　
二人はあの神仙妙選王との戦いが終わった後に急いで武陵桃源まで戻ってきて毒で倒れている道工に解毒の珠を差し出しただ、解毒の珠は道工の『悪い何か』を吸い取った後に淀み切って砕けてしまった、毒が治った道工は瞬間的に回復し倒れたときに散ってしまったオセロの駒を片付けながらお礼を言った、その様子に二人は笑ってしまった
　
「お二人さんはこれから何処に行き、何を目標とし生きていくのかね？」
　
その道工の言葉に二人は顔を見合わせてしまった、スーは元々旅人として子供の頃から一人で生きていき、実際メイプルアイランドに来たのもごく最近で目標も生き方も定まっていないのだ、そんなわけで顔を見合わせたまま何も言わずに黙っていると、道工は顎に蓄えた白いひげを満足そうに撫でると、重たい口を開いた
　
「そうじゃの…最近、メイプルアイランド中に暗黒の気が少しずつじゃがあふれておる…最近魔物の類が暴れておるのもそれに感化しておるからじゃろ…それに神仙妙選王が言っていたという「暗黒の魔術師」というのも気になる…何かの歯車が我々の知らないところで大きく動き始めようとしておる…どうじゃ？二人はメイプルアイランドを歩き回ることができる、だからお主等二人でメイプルアイランドを旅をして魔物たちを倒して闇の魔術師、について色々探してほしい、目標がないだけましじゃろ？」
　
二人はポカーンと道工の話を聞いていたが、先に言葉を発したのは以外にもスーであった、スーは言葉に出来合いような歓喜の言葉を叫ぶ、今まで目標がなかったスーに新たな目標ができた、スーはこの先の冒険のドキドキとワクワクが抑えらえなくなって叫んだのだ、それに影がもっとびっくりしたが、影もクックックと含み笑いして二人で笑う、道工はその様子を見てうれしそうに髭を撫でた
　
『こうしちゃいられない！いこう！』
≪俺様を置いていく気か？私はお前の影だからおいてはいけないゼ！≫




武陵桃源の霧の深い空、赤い木製の飛行機が飛んでいた、雲の中で煌めく太陽で飛行機は赤くピカピカと光っている、飛行機の操縦かんを握るのは栗色のおさげの女の子、名前は『スー』という、その後ろで飛行機の羽に腰かけているのは『スー』によく似た黒い影、スーが「召喚石」で呼び出した影の召喚物質である、帰り道は霧が濃くてスーは真剣な趣で操縦かんを操り霧を縫って飛んでいた、影は飛行機の羽に腰かけたまま周りの様子を望遠鏡で周りに異常がないか見ていた、しかし視線は遠くを向き浮かない顔をしていた。
　
≪（俺は…本当に「影」なんだろうか…あの陰の珠の影響を受けたとき、道工じいさんもスーも毒で動けなくなっていたのに俺だけなぜか逆に力を感じた…そもそも俺が本当に只の召喚物質ならこうやって考えることも、話すことも出来ない…自我があるわけでもないし…俺は…いったいなんなんだろう…）≫
　
深く考え込んでいたが、影の席にある通信管からスーの声が聞こえてきた、飛行機は空を飛んでいる間、後ろの席に声が届くように２人用の飛行機には電話のような通信管が取り付けてある、スーの声が金属管の奥から若干震えた声で影に届いた。
　
『どうしたの？さっきからうわの空で…なにかあっタ？』
≪いや…なぁ…もし俺が「影」とかじゃなくて…もっと危険な物だったりしたらどうする…もしかして魔物とかそんな類の物だったら…≫
　
滅多にきけない影の弱音を聞いて金属管の奥からフフフッと笑うスーの声が聞こえた、スーはそのあとに優しく言葉を重ねた
　
『確かに初めてダークロードさんの前で君を召喚した時にそのまましゃべり始めた君を見てダークロードさん、物凄く目を丸くして驚いてたよネ、私も最初はびっくりしたけど、いまじゃあその奇跡に感謝してる、当たり障りのない答えでわるいケド、影さんはずっと影さんだヨ、これからもよろしくネ！《相棒！》』
　
その言葉を聞いて、影の考えていることがいきなり吹っ飛んで真っ白になった、そして急に変なことについて考えていた自分がバカバカらしくなりアッハッハと影は笑った、耳を通信管につけていたスーはその笑い声に驚いて捜査官を一瞬離してしまう、飛行機は一瞬ガクガクとゆれて大騒ぎになったが、しばらく落ち着くとスーの通信管から影の威勢のよい声が金属音とともに響いてきた、その言葉はスー達の冒険心をより駆け出させた





≪俺からもよろしくな！『相棒』！≫






おしまい