「まずは二本を交互に振ってみるんだ。誤差があるなら左を右に合わせてくれ」
師匠はいつもながらの楽観的な考えではない。生死の淵を彷徨っているような真剣な表情。早く弟子である俺を一人前にしたいという衝動。
一体、何が師匠の心を急かしているのか・・・・・・。俺には検討もつかなかった。
左右の剣を振りながら考える。
もし災難なことを予期しているのだとしたら・・・・・・。それだけは考えたくない。
「よし、その交互に振った感覚を忘れるなよー。それを一時的に高速に振るんだ。迅速かつ丁寧に、な」
「右がついていかない俺にそんなことできるかな?」
俺の疑問に師匠は頷く。
「できるとも、リミッター解除をしてすぐ戻る。そんな感覚でいい。間違っても、某カードゲームのように破壊なんてするなよ?」
なんのゲームなのかサッパリ分からないが、俺は少々不安を持ちながらも左右の手に集中を注ぐ。
師匠は「俺の弟子だからきっとできるさ」と言って親指を立てた。
瞑想のように、俺は目を閉じて心を落ち着かせた。
ドクンドクン、と鼓動の音が聴こえる。そのリズムにのるタイミングを計らう。
「でやっ!」
二つの剣が秒単位よりも素早く交互に風を切り裂いた。
俺自身ビックリしている。まさかこんなに速く――右手をこんなに速く動かせるとは思わなかった。
その技術はまるで他人がやったようだと錯覚を覚えてしまうほどだった。
「すげぇ・・・・・・」
そして自分のしたことを他人からみたように感動していた。
「よくやった! さすが我が弟子!」
師匠が拍手をしてくれた。その時、ようやく俺は自分で成し遂げたのかと気づく。なんだかとても照れる。
「しかし、これはまだ初級中の初級。これから色々な技術を身に付けるように」
俺は喜びに浸っていた。ようやく兄さんのようになれる、と。間違っても、兄さんのような農家になるのではなく、兄さんと同レベルの腕になれるという意味で。
しかし、一発だけでもこんなに体力を消耗してしまうとは・・・・・・。
疲れたときは甘い物が一番! と誰かさんがいっていたので、今日はあんみつ屋でたくさん奢ってもらおう。そう思った。
それは叶わなかった。
俺の心の奥で渦巻いていた疑問が――
想像したくない何かが――
そう、災難が襲った。
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