「家や肉が焼け焦げる臭い・・・・・・? 師匠!」
幸いここまで火は伝わってはいなかった――が、もうじきここも火の海になるだろう。
恐らくだが、外はもう黒い空に包まれていることだ。
そんな時、師匠は目を瞑り、苦い顔をしていた。
「師匠! どうすれば・・・・・・」
「こうなることは予期していたこと・・・・・・しかしなぜ? 早すぎはしないか・・・・・・」
「何言ってるんだよ! 早く逃げないと・・・・・・」
まるで師匠はこの災難がくることを予想しておったかのように、ぶつぶつと呟き始めた。
しかし、臆病者だった自分は命が優先と、体が勝手に動くかのように逃げ道を探していた。
すると、師匠がハッと顔を上げた。そして今まで聞いたこと無い大きな声で叫ぶ。
「あの茂みまで飛び降りるぞ!」
「え、え!?」
戸惑ったときはもう遅かった。
腰に手をかけられ、自分の体が宙に浮く――そのまま、俺は師匠に抱えられ数秒であったが地獄のような空の旅をした。
「うわあああああああああああ」
なんとか目標通りの地点に飛び込めたものの、周りは火の海――
ん? あの空を飛んでいる生き物は・・・・・・?
「ドラゴンだ。やはりあいつの仕業か・・・・・・」
「師匠、何か知ってるのか?」
俺はもう訊きたくてしょうがなかった。この災難はなんだ? そして、師匠は一体何者なのか。
しかし師匠は首を横に振る。
「今はそんなことを気にしている場合じゃない。ここから脱出だ!」
火の海を走り回る。
出口はこの町の住民だから当然ながら知っている。だが、修行の疲れなのか、足をいつもより重く感じるし、出口が遠くにも感じた。
辺りを見渡すと、ドラゴンがこの町を襲っているのが分かった。一体何をしに・・・・・・、何が理由でみんなをこんな苦しい目に合わせているんだ・・・・・・!
思いっきり唇を噛み締める。血がにじみ出てくるほどに。
そんな中、一人の二刀流剣士がドラゴンと戦っていた。
「佳月! ここは危ない。早く逃げるんだ!」
「兄さんは・・・・・・逃げないのか?」
「俺は、この町を守る。この火事を起こした犯人をつきとめる」
無月こと俺の兄さんは勇敢にドラゴンと戦っている。
時にはドラゴンに攻撃を与え、時には醜い竜の吐く炎に包まれる。
俺はそんな兄さんの姿をボーッと見ることしかできなかった。
動きたい、でも足が動かない。
瀕死の状態で動かないんじゃない。この情景に戦慄を覚え震えているんだ。
涙を浮かべる俺に師匠はポンと頭をさする。
「佳月、俺も無月とこの町を守ることにする。だからお前は生き延びろ。これから困難が待ち受けているだろう・・・・・・が、自分を信じて・・・・・・強く生きていくんだぞ!」
「師匠・・・・・・」
涙が止まらなかった。師匠は潤った目をこすり、
「最後に、俺の力を少し分ける。決して復讐しようとはするなよ。自分の大事なものを探せ! 大事なものを見つけて、それを守るために生きるんだ。これだけはこの由良と約束してくれ」
・・・・・・頼むぞ、俺たちの希望――
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