気づけば里の外まで脱出していた。どうやら、無我夢中で師匠と兄さんの言葉を思い出しながら辛うじて走れたのだろう。そこらへんの記憶は必死すぎたのか、あまり覚えていない。
改めて里を振り返って見ると、未だに炎はあちこちと燃え上がり、ドラゴンもその数を増していた。
「は、ははは・・・・・・」
何も言えない。何も言葉が浮かばない。
俺は、自分が無力故にこんな結末になってしまったと悔やんだ。もっと力があれば、あの時師匠に相談してあげれたら――そんな想いが俺の心を膨張させる。
そんな時、ヒラリと一通の手紙が俺の服から落ちる。
・・・・・・あぁ、そういえば別れ際に師匠に手紙を貰ったんだ。
俺は手紙に書かれてあった内容を読む。
『この手紙を読んだということは、お前は逃げ切ったというわけだ。俺はそれで安心したよ。・・・・・・いいか佳月。薊には違った花言葉がある。それは『安心』と『厳格』だ。俺はお前が生き延びていて本当に安心した。そして、何よりも俺はお前が復讐することを厳格――つまりは、そういったことを許さない。必ず、自分の信じた道を突き進んでくれ。
――最後に、お前からもらった薊の花は返そう。その花を俺だと思ってくれ。言っておくが、俺は薊とは違ってチクチクしてないから『安心』しろよ?』
俺は手が震えているのが分かった。手紙に涙が落ち、師匠の書いた字が薄れていく。
俺の心の中は今どうなっているのだろうか?
声を出して泣き、痛いのを承知で薊の花を握る。
里の外の豊かな緑は綺麗サッパリに失い、赤黒い荒野と化していた。きっと問いかけていたその心は、この風景と同じようなものであり、何も無い空間に赤黒いなにかが突き立てているのだろう。
「くそっ! 何が・・・・・・何が安心したんだよ! 俺は・・・・・・俺は何もできなかった・・・・・・。無力だ! 無責任だ! 極悪人だ!」
心の中に溜まっていた何かが、感情となって表に出ていた。もう、俺にでも制御できないものになっていた。
無邪気に二刀を振り回す。ブン、ブンと何も無いものを切り裂いていく。
もしかしたら、何も無いわけではないのかもしれない。俺という存在が、壊れ始めたのか・・・・・・?
だとしても、もう止まらない。
その刹那。
不意に、自分自身の重心が崩れ、視界がぐらりと混乱したかのように揺らいだ。
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