「軍団長を……」
主である暗黒の魔法使い様がいなかったら、俺の目標は間違いなく達成できなかった。またしても、恩を仇で返せというのか。
「できませんか? 本人に脱退すると伝えに行け、と言ってるのではないのです。一方的にその存在から関係を断ち切れ、と言っているのです」
真相を知るため、四の五の言える状況下ではない。
ヴァンレオンは真相が明らかになるまでは、表向きでは“脱退”という形を見せておくことに。
「……分かった。それで、何故俺がジパングに?」
「私の知り合いからたった今連絡があり、未来からの侵略者にジパングが襲撃を受けているようです。それを鎮圧してほしいのです。……本当の目的は、侵略者より、それに憤り、 暴れ回っている方ですがね」
ぼそりと呟いた意味深な彼女の言葉に眉をひそめたが、とりあえは首肯しておいた。
「ジパングまで向かう小舟を手配いたしますので、こちらに……」
「待ってくれ」
木々の隙間に隠れ、こちらを心配そうな表情で伺っていた亜羽季を手招きし、シグナスの元へ突き出す。
「は、初めまして。アタイは……」
「亜羽季さんですね。記憶にあります、存じてますよ。ですが、何故彼と?」
「故郷にいたときに、お世話になった人なんだ」
「彼が?」
らしくないな、という視線をヴァンレオンに向けると、彼は視線を逸らして口を開いた。
「そいつも預かってやってくれ。ここにきた連中の仲間らしいんだ」
「なるほど。分かり ました」
少々お待ちください、と告げ、ヴァンレオンとシグナスは森の中へ消えていった。
「お時間です」
部屋に二度、小さく乾いた音が発せられる。二つ返事でベッドから飛び降りた姫は、パタパタと足音を鳴らして部屋の扉を開く。
「あれ? なんで変な帽子被ってるの?」
先ほどのまでの片眼鏡と遊びがあった衣のような服装とはえらく変わり、今度は船乗りのような制服を身にしていた。
「シグナス様から要人をジパングまで運送するよう頼まれまして。それでは、次元の扉まで案内いたしますので着いてきてください」
ジパングってね私の故郷なんだよ、と彼に言おうとしたが、えらく急いでいる様子であったので喉まで上がってきたそれを引っ込め、早足で 進むナインハートの後を必死について行った。
次元の扉とはいったいどういったものなのか。
姫の中には煌びやかな紋章が刻まれた、豪華な扉が想像されていたが、予想は脆く崩れ去った。集合場所である次元の扉の前で待機している騎士団長達は皆、武具を手にしており、始めるならいつでも、といったご様子。その扉は、城内に幾つも存在していた普通の物となんら変わりがないものであったから。
「えー! 全然普通の扉だよ? よく分かるね」
「慣れたらすぐです。では、私はこれにて。潜ってからの詳しいことは団長達に聞いて下さい」
しきりに年季の入った懐中時計で時間を確認しているナインハートは、小さく頭を下げると小走りで姿を消していった。
「普通の扉に見えるやろ? でもな、これ中凄いんやで」
標準語ではない。聞き慣れていない言葉の音源へと振り替えると、そこには全体的に青色の色合いが目立つ海賊姿の男、ホークアイがいる。
「ホント?」
怒りに身を任せ、彼を随分と傷つけてしまったことに対し、負い目を感じていたが、本人からそれに対する謝罪を求めるような気配は一切醸し出されていない。
「ああ、ホンマや。ミハエル。中に入ったら、ワイらとあんたらで別れるんやろ? 早うこの子にあの景色を見せてやりたいから、ワイら先でええか?」
「構わん……が、お前目的地までの道を作れるのか?」
「任しとき。あんま得意じゃあらへんけど、あの景色が綺麗やからの。はよう見せたいんじゃ」
大丈夫かよ、とイリーナと顔を見合わせ心配しているミハエルをそっちのけで、強引に扉を開扉すると、オズと姫を押し込んだ。
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