メイプルストーリー

おしゃべり広場

キャラクター名:
曄菱
ワールド:
あんず

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創作物語

巷説:ドッペルゲンガー壱 日付:2013.10.17 21:58 表示回数:345

並木が風で静かに揺れ動き、まるで辺りに煤が舞い上がっているかのような薄暗い外。
残業による疲労で、ぬかるみの中に入っているのかと思う程
もったりと重い体を引き摺りながら、路を進む人影が一つ。
深い溜息を漏らしたその人影の持ち主は、
道路へと落としていた視線に入ってきた影に気付き、ゆっくりと顔を上げた。

「―…ん?」

前方でただ佇む影の正体を、ゆっくりと目を覚まし始めた日の光が鮮明にさせていく。
徐々に現れる輪郭を見て、驚きのあまり持っていたビジネスバッグを地面へと落とした。

「ど、どういう…っ、お、俺なの…か?!」

動くことが出来なくなる程に驚愕する人物に、
驚かせた本人は僅かに口端を上へと歪めた。


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「くっさい」

小さな部屋にたちこめる煙からする独特の香りに、肩まである髪を内側に器用に巻いたボブヘアーの少女が眉を顰める。
その様子を見た煙の生産者は、気に止めることも悪びれることもなく、
寧ろ更に煙を吐き出しながら感情を込めずに「ごめん」と一言呟いた。

「いやそれ謝ってるうちに入らないから。感情入ってないから」

キッと鋭く睨めば、馬鹿にした笑顔が返ってくる。
自分よりも幾分歳を重ねた相手に、少女は臆することもなく憤懣をぶつけるように掴みかかった。
が、
如何せん体格差がありすぎて、彼女の動きは虚しくも止められてしまう。

「椿、オレ煙草吸えなくなると死んじまう」
「吸ってても死ぬから大丈夫」
「そういう事言うんだったら、これからも吸うからな」
「たっくんよりも私の方が被害受けるんですけども!」

小さな頭を、煙草の香ばしい匂いが残った大きな手で見事に押さえ付けられた椿という名の少女、本名・冬野椿は、頭を締め付けはじめる五本の指に小さく悲鳴を漏らす。

「焚、椿がかわいそう。あと椿、うるさい」
「―…っ、さっくん助けてくれるのは嬉しいけど、でもヒドイよねっ」

二人のやり取りを野良猫を追い払うように冷たくあしらうのは、本条咲という青年。
椿を押さえつけていた「たっくん」こと本条焚の双子の弟だ。

「つうか、咲のがオレより吸ってんだろうがよ。先に怒るならそっちだろ」
「俺はちゃんと換気扇の下で吸ってる」
「そうそう。それに私を煽ってきたのは、たっくんでしょ」

再び侃々諤々と口論をはじめる二人の噛み付くような声を聞きながら、
咲は我関せ焉、と論争の元になっている煙草に火をつけた。

「まったく…煩いな…」




    【 蛙鳴蝉噪 】

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