瞳を虚無感で染めて、僕は愛積をじっと見つめる。
深層に潜める腸を割った仲だと僕は思っていた。なのに……。
純粋な感情が純粋に、僕の心を磨り減らす。
愛積は僕の瞳を見て態度を悪くすると、視線を逸らしてごまかす様に呟く。
「……親殺しの事実まで話したら、嫌われると思ったからだよ」
「何で……。何で!!」僕は感情のまま、懸命に訴える。
「僕はそんな事で君を嫌いになりはしない!! なのに何で! 何で!!」
真実を語ったフリをして、重要な事実は隠蔽されていた事が悔しかった。
僕は愛積に懇意だったからこそ誠心誠意、真実を語ったのだ。だから愛積も誠心誠意、真実を語ってくれたと確信していたのだ。
「ねぇ何で! 何で何で何で!! 何でだよ!?」
「黙れよ!!」愛積が癇癪を起こして反論する。
「俺様はてめぇに絶対嫌われたくなかったんだ!! だから……! だから!!」
僕が反論する言葉を失った隙を縫って、狩野が疑問を投げかける。
「話が変わるが百戦恋魔、君はよく親殺しを達成できたな。親とじゃ体格差は歴然だ。半端な覚悟で挑めば凄惨な顛末もあったろう」
「いい質問だな、芝崎狩野。てめぇは着眼点が最高だぜ!!」
愛積は軽快な調子を取り戻すと、愉快に笑いながら語り続ける。
「確かに俺様は弱かった。父親を惨殺するなんて夢物語だった。が、俺様に他の手段は無い。父親を惨殺するほか、絶望的な地獄から脱却する手段が無かったんだ!! 選択肢の無い状況と絶望的な現実が精神的負荷として重なった瞬間、俺様は青春能力を獲得したんだ」
愛積は拳を握り締めると、表情を強張らせ、殺気を滲ませながら言い放つ。
「弱かった俺様が父親を惨殺する為に獲得したのは、四撃決殺の異能。対象を拳で『四撃』殴れば、強制的に絶命する。それが俺様の青春能力、『四度目の誕生祝い(ハッピーバースデーキルユー)』だ」
なるほど。それで壱撃(ファースト)いれて、後は三撃ってわけか。……いや、だが、
「君の青春能力は他愛ない愛(ラブブラフ)の筈だろ」
「多重能力者(ダブルトリガー)だな」僕の疑問に狩野が答え、続ける。
「稀に複数の青春能力を獲得する事例があるらしい。だが、思春期前の時点で最初の青春能力を獲得しているのは異例のケースだろうな」
「最初の精神的負荷で獲得したのが四度目の誕生祝い(ハッピーバースデーキルユー)で、その後の精神的負荷で獲得したのが他愛ない愛(ラブブラフ)だ。四撃決殺に加え、抜群の攻撃性能も獲得している俺様に隙はねぇ!!」
豪語する愛積だが、確かに脅威的な性能だ。
愛想の湧かない対象に抜群の攻撃性能を誇るだけでも脅威なのに、対象が粘っても四撃で強制決着なのだからたまらない。僕が喉を鳴らすなか、愛積は肩をぶんぶん回す。
「後三撃だぜ、蓮美端道。その瞬間、謳歌学園の覇権は俺に移る!! まぁ、既に満身創痍の体だ。三撃食らう前に絶命して決着するかも知れねぇがな! ははっ!!」
愉快に高笑いする愛積を、僕は真剣な眼差しで捉える。
「いいぜ愛積。この真・最終決戦、命懸け(オールイン)で挑もう。だが最初に宣言する」
僕は拳を握り締め、腹を底を震わせる。
まるで落雷でもした様な衝撃で、雄叫びをあげる様に声を張りあげた。
「僕はこの勝負!! 絶対に君を! 攻撃しない!!」
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