愛積が唖然とするなか、僕は続ける。
「だから僕の恋人になってくれないか」
「……ッ!? んな!?」
愛積は好戦的な顔つきのまま頬を染める。
だが殺気を鋭くして僕を睨むと、奥歯を剥き出しにして、威嚇する様に叫ぶ。
「っざけんじゃねぇよ!? そんな饒(じょう)舌(ぜつ)、誰が信用するかってんだ!! それに俺様はもう、てめぇに興味とかねぇし!? くたばれ端道!!」
拳を振りかぶると、遠慮など無い攻撃速度で僕の顔面を捉える。
「参撃(サード)」
愛積の振り抜いた鉄拳が、僕の顔面を直撃した。
びぎびぎぃ!! と鈍い音が這う様に鼓膜に響く。顔面の骨に亀裂がはいったか? 鼻骨がやられた影響か、鼻血がどくどく溢れる。
「おい!? 端道!!」
焦燥する狩野に視線を移し、なだめる様に微笑んでから、愛積に視線を戻す。
「顔面、粉砕まではしてないぞ。僕に愛想が湧き始めたか? 嬉しい話だ」
「端道!? 安易に挑発するな!!」僕の軽率な態度を危惧したのか、狩野が制する。
「君は既に参撃(サード)まで食らってるんだぞ!? 次の攻撃を食らったら――」
「黙ってろ!! これは僕と愛積の問題だ!!」
憤慨する僕を見て、愛積は滑稽そうに失笑する。
「狩野の言う通りだぜ。端道、てめぇは次!! 次に俺様の攻撃を食らったら絶命する状態なんだぜ? もっと危機感を持てよ。俺様に勝つ? むりむり。あっははは!!」
勝負を終始愉快そうな表情で観戦する摘葉が、苦笑しながら提案する。
「端道。僕は降参を勧めるよ。生徒壊潰しはもう達成したじゃないか」
「……。わかってないなぁ摘葉。誰も、誰もこの勝負の真意を理解しちゃぁいない」
僕は愉快に微笑む。狩野が、摘葉が、愛積が唖然とするなか、愉快に微笑む。
「これは僕と愛積の真剣勝負なんだ。僕が愛積に! 愛を伝える勝負(ステージ)なんだぜ!?」
愛積が唇を噛み締め、摘葉が素っ頓狂な表情を浮かべるなか、
「君はもう……最高だな」
狩野が苦笑する。
「真・最終決戦と豪語されたこの勝負を、縁談の舞台にするか」
「だから最初から言ってるだろ。この勝負は、そういう勝負だ」
「百戦恋魔が承諾すれば縁談決着で勝利。破談すれば絶命して爆死だわな」
「愛積を最初に裏切った僕だ。命も懸けるさ」
「殊勝な心意気だな」
僕が軽く微笑んで、愛積を見据える。愛積の視線は冷徹だった。
「俺様とまーだ恋愛関係になる気か」
「僕は諦めが悪いよ。命懸けちゃうぐらいはね」
「……ああ。最後までてめぇは危機感がたりなかったな」
「愛積!!」急に高まった声量に愛積が困惑するなか、僕は続ける。
「僕が君がだいすきだ。誠心誠意、愛してる。だから……――」
緩やかに微笑む。だが、頬を涙が伝っていた。
それで感情のせきが切れて、堪えていた気持ちが濁流のごとく溢れ、涙が滝の様に流れる。その状態で僕は、懺悔でも呟く様に言葉を漏らす。
「嘘ついてごめん……。ごめんな……ぁぁ!!」
「!? ……っぐ、あぁあああ!! もういい! もう!! いい!!」
愛積が眼を見開き、歯を食い縛りながら悶絶している。葛藤しているのか、涙を滲ませながら唸り声をあげる。摘葉が当然、僕や狩野も動揺して言葉を失うなか、愛積は暴れる感情を鎮めると、静かに微笑む。背筋に氷でも触れた様な、嫌な悪寒が僕を貫く。
「恋愛も愛情も、もういい。俺様はてめぇを殺すだけだ。俺達の関係に決着をつける」
拳を緩やかに振りかぶるのを見て、僕は微笑む。
「……。それが君の結論か?」
拳を強く、強く握り締めるのを見て、僕は頷いた。
「なら異論はない。僕は君を、愛してるから」
愛積の振り抜いた拳が、僕の腹部を捉える。
遠慮とか後悔とか、そんな感情を微塵も感じさせない、洗練された鉄拳だった。
「死撃(ジ・エンド)」
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