四度目の誕生祝い(ハッピーバースデーキルユー)が発動する、強制絶命の四撃目が僕の腹部に直撃する。
腹部は摘葉戦の爆撃で負傷し、狩野戦でも徹底的に嬲られた箇所だ。衝撃が腹を経由して臓器に浸透すると、鈍痛が響いた後で激痛が全身を駆け抜ける。愛積の拳は腹部の鮮血で真っ赤に染まり、僕は鮮血を噴き出す。地面に血溜まりができていた。
愛積の喉を鳴らす音が異様に響く。
場は静まり返り、緊張が蔓延している。僕は沈黙するばかりだ。
沈黙のまま緩やかに微笑んで、愛積の肩に掌を添える。
「愛積……。僕は君を、信じてたよ」
瞳に涙を滲ませながら、感情の溢れるままに愛積を強く抱き締める。
「嘘で君を裏切った僕には、信じる事しかできなかったけど、よかった……!!」
強く、強く愛積を抱き締める。
その瞬間に異論を唱えたのは摘葉だった。
「おい!? 四度目の誕生祝い(ハッピーバースデーキルユー)は!? なぜ! なぜ端道は絶命しない!!」
「端道から愛情を獲得した事で消滅した。精神的負荷と精神の解放は等価値だからな」
狩野は溜め息をこぼした後、僕等を見て鼻で笑う。
「端道の愛が勝ったって事だな。他愛ない愛(ラブブラフ)は『その後の過程』で獲得したと言ってたから、今後恋愛が続けば自然と消滅するんだろう。今回は端道に愛想が湧いたから、その異能も発動しなかったわけだ。腹部は俺が徹底的に嬲った箇所だ。他愛ない愛(ラブブラフ)が発動した拳だったなら端道は絶命しただろう」
摘葉が爪で頬を掻き毟って奇声をあげるなか、狩野は薄らと微笑んでいた。
「言葉で感情を偽っても、心は偽れない。蓮美端道、君の勝ちだな」
僕が抱き締めるなか、愛積の好戦的だった顔つきが穏やかになる。硬質化した黒髪は緩やかになり、獰猛だった瞳も優しい輝きを取り戻す。攻撃性を鎮めて普段の愛積に戻ると、途端に表情を曇らせて僕の胸に顔をうずめた。
「ごめんね……!! 端道君ごめんね!! 私も端道君の事がだいすきだよ。愛してる!!」
僕の愛積の後ろ頭をそっと撫でる。そして感無量のまま抱き締める。
もう遠慮なんていらないんだ。僕は愛積をこうしてずっと、抱き締めていいんだ……!!
「僕も愛積を愛してる。ずっと、ずっと……!!」
僕等に残された展開はさよならだけだ。
でも僕は愛積を愛してる。愛積も僕を愛してる。
菊池先生を倒し、繚乱学園での青春を終える事ができたならば、その時は……。
僕等は強く、強く抱き締めあっていた。最高の時間が流れる事を歯痒く思いながら、それでも抱き締めあっていた。僕等は愛を強く、強く認識する。
時の流れは遠慮をしらない。時間は無常に流れるばかりだから。
斜陽は姿を消していた。月が闇夜の幕を連れていた。隙間を縫う様に星々が輝いている。
闇夜は僕等を覆っていた。新たな愛が、終わらない様に。
星月は僕等を照らしていた。新たな愛を、祝福する様に。
僕等はそれを歓迎して、ただ静かに微笑んでいた。
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