「蓮美さん、目は覚めましたか?」
滲んだ涙を拭いながら、米澤さんが尋ねてくる。
「あ! ああ、はい!! お陰でばっちり目覚ました」
僕が眼を見開いて敬礼すると、米澤さんは軽く微笑んだ。
「それであの……」
「はい?」米澤が微笑んだまま首を傾げる。
「服を着替えたいんですけど」
「っひゃう!?」
僕は今病院服だから、制服に着替える必要がある。
「あ、ああ、それはそれは! どうぞどうぞ!!」
米澤さんは途端に頬を赤らめると、俊敏な動きで病室を後にした。普段は要領とか悪い割には機敏な動作だったと感心しながら、僕は病院服を脱いで制服に着替える。
病院からそのまま登校できるよう、通学鞄や勉強道具は事前に準備しておいた。顔を洗い歯を磨き、髪型を整えてさぁ準備万端と病室をでた所で、米澤さんが待っていた。
「米澤さん?」
「あ、あ……。蓮美さん、退院おめでとうございます」
「……? ありがとうございます」僕は深くお辞儀する。
「米澤さんの看病のおかげで僕、無事退院する事ができましたよ」
「いえいえ、看病と言ってもたいした事は……――」
米澤さんは微笑んでいた表情を次第に崩していく。
「あの」
「はい?」
「看護師の私がこう言うのも変かもしれませんが、私、誰かが怪我するのとか嫌なんです。蓮美さんには特に、その……。もう怪我とかしてほしくないです」
「……」僕はおどおどと視線を逸らす米澤さんの瞳をしっかり見据え、微笑んだ。
「僕は『護る男』になるのが夢なんです。信念も、愛も、約束も、僕は護る。だから米澤さんがそう言うなら、僕はもう怪我はしません」
米澤さんの視線が自然と、僕の瞳を捉えていた。
「僕はそういう男ですから」
踵を返し、米澤さんに背中をむける。
「蓮美さん……。あ、あの!!」
僕が首だけ捻って視線をむけると、米澤さんは笑顔で手を振っていた。
「待ってます! 蓮美さんがまたくるの、待ってます!!」
僕は微笑む。
「今度は患者じゃなく、知人として遊びにきます」
軽く手を振り、緩やかな足取りで病院を後にした。
病院と繚乱学園は隣接しているから、校門は近い。
僕は校門を颯爽と潜り、繚乱学園のなかに入る。謳歌学園も相当な敷地面積だったが、繚乱学園の敷地はやはり別格だ。三週間ぶりの登校復帰に気分も自然と高揚する。米澤さんの看病は懇親的だったが、やはり病院は窮屈で退屈なものだ。
深緑の豊かな並木道を、緑風を全身に浴びながら溌剌に通る。
その時だった。
「硬貨投擲(コイントス)」
「!?」
急接近する物体を咄嗟に回避する。物体は並木道の緑樹に直撃するとめり込み、摩擦からか薄らと煙をのぼらせる。物体は凝視すると百円硬貨である事がわかった。
「弾丸並かよ!? だが硬貨を使う攻撃方法は……――!?」
背後に気配!! 僕が振り返ると、推測通り後輩の駒形勇が拳を振りかぶっていた。掌には五百硬貨が握り締められている様だ。
「隙あり!! 消費金額『五百円』。貧乏神懸かり(ブローブロークン)!!」
「ッ!? 潤滑起爆(トリプルシンプル)発動。左掌の摩擦をゼロにする!!」
黄金に輝く鉄拳を掌でいなす。だが駒形は流れた勢いで回転すると、袈裟蹴りで追撃してくる。ただの蹴りならと腕で防御の体勢を整えるが、駒形の脚が黄金に輝いた瞬間、後悔する。
駒形は事前に靴のなかに硬貨をいれていたんだろう。
だが既に時遅し……!!
「消費金額『百円』。貧乏神懸かり(ブローブロークン)『借金蹴り倒し(バージョンキック)』!!」
「ぐっ!?」
腕で防御できる筈もなく、袈裟蹴りの衝撃でぶっ飛んだ衝撃で僕は緑樹に衝突する。だが、謳歌学園の激戦で成長した僕には、そんな衝撃など負傷の内にはいらなかった。
僕は余裕綽々で体勢を整え、闘争意欲全開で応戦する姿勢を見せると、駒形は動揺しながら握った掌に硬貨を乗せ、それを弾く。
「硬貨投擲(コイントス)!!」
僕は投擲された硬貨の弾丸を難なく回避し、駒形との距離を詰める。
「戦術は練られてたが、まだ僕の敵じゃないな。決着だぜ駒形」
腰を限界まで捻り、逆側に跳躍して高速回転する。
「回転乱舞(ランブルランブ)!!」
「ひでぶっ!?」
高速回転からの回し蹴りを横顔に食らい、駒形は緑樹に後頭部から直撃する。相当な衝撃だったのか悶絶して暫く蹲った後、涙目ながらに降参した。
「せ、先輩遠慮なさすぎっス……」
「真剣勝負に遠慮はないよ。でも駒形、君凄く成長したじゃないか」
「マジですか!?」駒形が嬉々と瞳を輝かせる。
僕が微笑んで駒形と肩を組んでいた時だった。
「駒形君は君が居ない三週間、私がみっち
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