悪いな、ハヤトが詠唱してる間は無防備なもんでね俺がしばらく相手してやるよ」
レオは受けた棍をはじき返すと一気呵成にシエに向かって切り込んでいく。
「ほらほらどうしたぁっ」
レオは左右の剣を振るいシエに乱舞を浴びせる。シエはそれを棍で一撃一撃確実に防いでいく。
「流石に連打が効く双剣ですね……ならこっちはそれを上回る連打をお見せしましょう」
シエは剣を受けた棍を薙ぎ払うようにしてレオを後ろへ後退させ距離をとる。
「さぁ行きますよ? 怪我しないでくださいね」
シエは完全に半身になり棍を自身の身体の陰に隠すと地を蹴り全速力でレオに近づき棍を振りぬく。レオは負けじと刀を振り、打ち出される棍を受け止める。しかし、上下左右余すことなく撃ち込まれる連打は徐々にだがレオを追い詰めていく。
「くっ……流石に棍での連打には追いつけないか……どうしようかねぇ」
「レオ、守備ご苦労様」
レオが独り言を言いながら受け止めていると後方からハヤトの声が聞こえてくる。それに対してレオは「おせーよ」と悪態をつき、持てる最大の力でシエの棍を打ち返すと後方へ向かって跳躍した。棍を打ち返されたシエは棍の長さも相まってバランスを崩し隙が出来る。その隙を見逃さずハヤトはシエに向かって一気に駆け込んで武器を振る……が機転を利かせ、棍を基点にして宙を舞ったシエを捉えることは出来なかった。
「流石に、棍の長さを生かした戦い方をされると、僕でも一撃入れるのが難しいなぁ」
ハヤトは音も立てずに着地したシエに賞賛の声をかける。
「団長に比べたらまだまだです」
「シエさん、僕の事を団長っていうの癖になってるよね」
「あ……ごめんなさい……次から気を付けます」
シエは少し俯きながら恥ずかしそうにハヤトに謝罪する。
「それは気にしないんだけど……とりあえず仕切り直そうか」
「はい、覚悟しといてくださいね」
ハヤトとシエは再び武器を構えなおす。
「凍てつけ剣線っ」
ハヤトが武器を振ると地面を薄氷がハヤトを中心として広がっていく。
これにはシエも後方に飛び退き様子を伺う。
「これが、ハヤトさんの氷剣……全力じゃないとは言ってもこれだけの範囲を凍結させれるなんて……」
凍結した地面を見ながらシエは驚嘆の声をあげる。ハヤトの全力は大地を凍らせ氷山をそこに築き上げる位というのは噂には聞いており、その片鱗を垣間見ることが出来たからだった。
「ハヤトさん、私の全力の一撃受け止めてくださいね」
シエは少し微笑みながら、棍を自分の腕幅で持ち切れるギリギリの所で持つ。そして、後ろの脚で地面を思い切り蹴るとその勢いを生かしハヤトに鋭い突きを打ち込む。
辺りに鋭い金属音……。鋼鉄製の棍を模擬戦闘用の武器で受けたら確実に鳴り響かない音。
「流石に、こっちじゃないと無理か……悪いな、ハヤト」
シエの武器を受けたのはレオだった。数か月前、シホとの戦闘でヒビの入った双剣を抜きはらいシエの全力の一撃を受け止めたのだ。
ヒビが入り寿命が来ていた双剣は、ヒビの入ったところから完全に折れ、地面に刃を突き立てていた。
「レオの機転に助かったよ……多分あのまま模擬戦闘用の武器で受けてたら間違いなく青あざじゃなくて骨折ものだったからね」
ハヤトはレオに感謝を述べる。
「レオさん、武器が……」
シエはレオが両手に持っていた武器を心配そうな目で見る。
「ああ、新調してる途中だから気にしなくていいぞ」
「レオの武器は折れちゃったけど、シエさんの実力がどの程度か判ったし。上々の成果じゃないかな」
「名誉の負傷だよな、俺たちで言う」
「それじゃ、今日も模擬戦闘やってくよー、今日はレオが攻略部隊だね。よかったらシエさんも混ざってね」
「はいっ、よろしくお願いします」
ハヤトが声を掛けるとレオは小隊を引き連れて里の外へと出ていく。その後ろ姿を見送りつつ、シエとハヤトは防御の陣を敷き始めた。
作者コメント
次回、王国軍急襲
猛者たちの初陣、そしてシホ達は里を守れるのか
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