小川の水が留まることなく緩やかに流れ続ける。
木々が静かにざわめいて、そよ風が私の肌に優しく触れる。
綺麗な青空は、今はオレンジに染まって黄昏れ始めている。
地平線の彼方まで続くいわし雲は、一体どこへ向かっているのだろう。
私は、時に思う。
ああ、世界は何処までも続いているのだなあ、と。
あの雲が続く彼方でも、自分のように空を見上げている人がいるのだろうか。
ヒグラシのどこか心寂しさを感じさせる鳴き声が止むと、赤とんぼが躍り出た。
稲穂の上を飛び回り、小川の石にとまり、ちょんちょんと腹を水面につけたりしている。
赤とんぼの踊りは、普段から学校や部活で荒みきった私の心を日の暮れと共に沈めてくれる。
あのとんぼ達は、日々何を思って飛んでいるのだろう。
もしも繁殖以外に何かを成し遂げようと思う心があるならば・・・
仲間のとんぼと遊ぶのだろうか。
仲間のとんぼとくだらない話をするのだろうか。
仲間のとんぼの死を・・・悲しんだりするのだろうか。
・・・風は吹く。私達が立つ大地の上を。遠く海からやってきて、私の服を静かに揺らすために。
とんぼ達はどこかへ、地平線に隠れた太陽のように忽然と姿を消す。
きっと、とんぼは自分の帰るべき場所へ帰ったのだろう。愛する仲間達と共に。
彼らは、今日も元気に舞った。
私は、どうだろうか。
朝起き上がれば、最初に思うことは憂鬱だと。
私は彼らのように日々を懸命に生きているだろうか。
彼らはいつも、子孫を残すことしか考えていない。
だけどそれは、言い換えれば、自分の目標に向かって懸命に飛び続けていると言うことだ。
私は、どうだろう。
夢を見て、その夢に少しでも近づく努力をしただろうか。
こうやって、私はよく思うことがある。
この世界で最も弱いのは、人間だ。だが、群れになると最も強いのは、人間だ。
大多数の人が、それを納得するかもしれない。だけど、と私は思う。
とんぼ達、あるいは他の動物達は私達と違って心を持たない。ゆとりを、持たない。
故にこそ、自分の使命を目標として、それに向かって頑張り続けられる。
私達は、どうだろうか。
よく、我々の強みは他の動物が持たない心だ、と言うような言葉を聞く。
だけど、それは逆なのではないか。
心を持つから、感情があって、感情があるから、明確な意志が揺らぐ。
目標への意志が弱いから、夢を抱くことも出来ず、たとえ力が強くても、意志が揺らぐ私
達は、果たして他の動物達より強いと断言できるのだろうか。
私は、思う。
力で人間達が一番強くても、それでも私達は他の動物達より弱いんだ、と。
鈴虫や、こおろぎが鳴く。私に向かっておつかれさま、と。
私の心を休ませてくれる彼らの声も、私には妙に格好よく聞こえた。
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