あと、2週間後と、3週間後に最後の、全国大会への切符を手にする大会がある
海堂、仁川、御廉、甲斐、そして新福は息巻いていた
彼等は皆、今日に至るまで全国出場権をまだ得ていないのである
日本トップレベルの中学生と競い合う
そのための切符
「………遠藤」
「なんでしょう海堂さん」
「…日本記録…あったよな…」
「…は…はい…」
遠藤は怯えていた
実はあれちょっとファール気味だったけど皆自分ばっか見ててファール判定取られなかった
なんて事を知られているのでは、と
「…イイなぁ…それでこそ叩き潰し合いが捗るなぁ!」
「…ひ、ひい…」
「なんて考えは、もう捨てた」
遠藤は少し意外だった
あんなに俺を蹴落とすことに夢中だったこの人が
すっぱりそれをやめるなんて
「今度の試合は、正々堂々
漸く真正面からぶつかって壊れない奴が居るんだ、楽しもうぜ」
その目は何処かで、歓喜にあふれていた
この前見せていた彼の好戦的で毒々しい目は消え失せていた
海堂は助走をつけて、ロイター板を踏み越えていった
「正々堂々…くそっ、ファールしてたの、バレてた!」
遠藤は嘆いた
海堂は着地した地面に五体を投げ出し空を仰いでいた
「クソ暑い…」
考えたのは
海江の事だった
事故の存在を問われて、それを闇に葬るがため、それは償いのためか、自分の命を絶ったと聞かされた時、一概の興味もなかった
それはきっと奴の逃げだと思ったからだ
海堂は海江が嫌いだ
結局、最強の世代を組み、蹂躙した彼も、結果ただの保身的な人間にすぎなかったのだから
久しぶりに帰った円心館
シラけたツラが累々としていたら、もうここを去ってしまおうと思った
彼の目に映ったのは
海江の教え子が、それも事故で足が使えなくなり、走ることを断たれた男が、また陸上に携わっていた姿だった
「海江…お前の残したものは、小せえとばっか思ったが
死んで初めて知ったぞ」
汗が砂に染みていく
「海堂さん、跳べません、あの」
「あー…」
「悪い」
雲が疾く通り過ぎ、午前の薄雲は、真昼になりつつある今、積雲と重なって分からなくなった
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