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「さて……俺もそろそろ帰るとするか」
トミーがストリートギャングに拉致された直後の話だ。いつものようにエリオットは仕事を終わらせ、家へ帰ろうとした時にそれは起こった。
ポケットに入っていた携帯電話が鳴り響き、それを取り出す。
妻からだろうか?
そう思いながら、エリオットは携帯電話を耳に当てた。
「エリオット! 大変なんだ!」
聞こえてきたのは、昼食にトミーとよく行くダイナーの店長、レイモンドの声だった。
「こんな時間にどうしたんだレイモンド」
「よく聞いてくれ。ついさっき、トミーが黒人たちに拉致されるとこを見たんだよ!」
「何だって!?」
「今から俺の店に来てくれ! 詳しい事を話したいし、それについてお前に見せたいものもあるんだ!」
「分かった……今からそっちに向かう!」
言って、エリオットは携帯電話を切ると、駆け足で駐車場へと向かった。
そして車に乗り込み急いでレイモンドの店へと車を走らせた。
「待ってたよエリオット! こっちに来てくれ!」
数十分車を走らせて到着すると、店の前ではレイモンドが待っていた。
レイモンドはエリオットを手招きし、店の裏側へと回る。
そこには窓ガラスが割れた一台の日本車があった。
エリオットはその車に見覚えがあり「まさか」と呟きながらナンバープレートや内装を確認する。
するとその車はトミーが所有している車である事が分かった。
「なぜここにトミーの車が?」
「お前が来る間に街のチンピラがこれをパクると思ってな。キーも掛けっぱなしだったもんで、勝手ながらもここに移動しておいたんだ」
「それはありがたい。あいつもこの車を気に入ってたからな」
「この車を売って借金を返して欲しいんだがね……まあ、店の中で珈琲でも飲みながら本題に入ろう」
言うと、二人は裏口から店へと入った。
カウンター席にエリオットを座らせると、珈琲を淹れながらレイモンドは話し始める。
「偶然コンビニに寄った帰りなんだ。トミーが大勢の黒人たちに車から引きずり降ろされるのを見ちまってよ……やけにガタいの良い黒人の一人が、トミーの後頭部を殴って気絶させやがったんだ」
「それでどうなったんだ?」
「コンビニの駐車場に停めてあった黒いワゴンにトミーを運んで、何処かへと連れて行っちまったよ。すまねえエリオット。俺は何も出来なかった……」
レイモンドは本当に申し訳なさそうに呟いた。
「気にするなよレイモンド。あいつが死ぬ筈ないだろ? なんせ全米一の悪運の持ち主なんだ。むしろここまでしてくれるお前には感謝してるよ」
「エリオット……」
「さ、今からお前が行ったコンビニへ向かうぞ。監視カメラにその映像が映ってるかもしれないからな」
飲みかけの珈琲を一気に飲み、エリオットとレイモンドは店を出た。
車のエンジンを掛け、嫌な予感を感じながらもエリオットはステアリングを操った。
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