メイプルストーリー

おしゃべり広場

キャラクター名:
Dora猫o
ワールド:
あずさ

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創作物語

空白の玉座 第9-1話「意思の意味」 日付:2014.12.08 21:30 表示回数:451

考えた。コルトバ=ユースを倒す算段を。何故今までこの手法に気づかなかったのか、馬鹿馬鹿しい程単純明白な事だ。
 レティナ=フォン=ヘレメリカの殺害。
 奴の力の源が彼女に在るというのなら、その源を断てばいい。しかし、幾多の歴戦を潜り抜けてきた「魔王」エル=ベルトランが何故このような容易い策が頭に浮かばなかったのか。理由は二つある。
 まず、第一にコルトバの意思の力というのを試したかったのだろう。物理的に存在しない力すらも征服させたいという気持ちが前のめりになった。支配者たる風格が思考を遮断させていた。
 もう一つ、それは彼の心に潜む騎士道が卑劣な行為を阻害させていたのだ。エル=ベルトランは騎士道を忠実どころか物笑いの種にするくらい嫌って馬鹿にしている男だ。しかし、そんな彼でも騎士道に重んじる部分が幾つかあるのは事実。
 それより、今エルの内面事情よりも頭に入れておかねばならないことは、エルがコルトバからレティナへ標的を変えたことだ。その気配をコルトバは肌で感じ取った。エルから滲み出てくる悪魔の威圧――つまりは殺気と共におぞましい気配を。
「させるかよ!」
 すぐ様動けだしたのは幸運だった。片手で弄ぶかのように白銀の剣をエルに振るう。物を投擲する腕と同じような軌道を描いてエルの鎧を狙うが、砕けつつある暗黒の纏に命中させることは叶わなかった。
「助かった。おかげで楽に動ける」
 淡々とした口調でエルは言う。その表情には笑みが浮かぶ。自分の策略を自画自賛しているようで、そのことを象徴しているかの如く、エルの目線はレティナから反れることはなかった。ここで注意して欲しいのは、決して彼は傲慢な態度を取っているわけではない。
 ――愉悦。ただ愉悦に浸ろうとしているのだ。エルはコルトバ=ユースを見下したことによって油断を生んだ。自分自身の行いこそが今の状況を作っていたことは自覚している。
「先刻より動き、貴様を翻弄しているのは何故だ? それは俺の“姫を殺したい”という意思が力を増強させているからか――いや違う。単純なことだ。邪魔な鎧が砕けたことによって俺の体が軽くなったからだ」
「それにはさすがに賛成するよ。殺意、復讐――そんな意思は決して己を強くしない。ただ自分の心を蝕んでいくだけだからな」
「同じ『意思』だ。何が違う? それは貴様のエゴというものだ。『守る』ものは強さに受け入れられ、『破壊』には強さに拒まれるというのか? この世の筋道を知らない田舎物に教えてやろう――何かを守るためには、何かを犠牲や何かを破壊せねばならない。現状はまさにそうだ。姫は国を守るために騎士を犠牲にし、俺を命がけで倒そうとしている。統治者というものはそういうものであり、一種の縮図にすぎん」
 エルが魔剣デュラハンを地面に突き刺し、それを中心軸として使って自らの巨体を回転させる。遠心力を利用した体当たりはコルトバの体にモロに直撃する。コルトバの体は後方に吹き飛び、レンガで建築された一軒家の壁に衝突する。乗り物並みの速さで直進――レンガで積み上げられた壁はその衝撃に耐えることができず、衝撃の源から一つ一つレンガが崩れ落ちていく。一番高いところで4m。直方体の石の塊が無数に襲い掛かってくる。
 レティナは思わずコルトバの名を叫ぶが、魔王はそんなことに歯牙にもかけずに彼女の元へ歩み寄る。ゆっくり、ゆっくりと。
「さぁ、そろそろ玉座から降りてもらう」
 魔王から発せられた危惧すら覚える言葉。その声色は、ヘレメリカ国を滅ぼし、支配者として君臨す時のもの。彼は愉しみながら真摯に物事を捉えている――玉座に座る人物を殺すことによって国は滅びる、と。

―――――
今回は長くなってしまったので前半後半で分けます。

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