「私だって・・・・・・戦える!」
対して、闘志の眼差しでエルを睨みつけた。彼女はエルなんていう男に屈することはない。足元にまで転がってきたレンガを拾い上げる。
「無様だ」
エルは吐き捨てるように言った。この間にも、レティナはそのレンガで思いっきりエルを殴っている。
「脆弱だ」
そのような攻撃、幾多の戦いを繰り広げたエルにとって、かすり傷もつかない。
「無惨だ」
幼い少女の力など高が知れている。レンガを持つくらいで腕が震えている。
「見るに耐えん」
エルの手には魔剣デュラハンが握られていた。
そして、無慈悲にもその剣は振り上げられ――
「消えろ」
レティナ=フォン=ヘレメリカ――幼くして即位した姫に降り注がれようとしていた。
今度こそダメだ、そう確信した。
私はここまで頑張った、そう慰めた。
死んでいった騎士たちを思うと涙が溢れ出てくる。それでも、守りたいという意思を貫いた、そんな慰めがなければ心の中に蓄積する罪悪感によって張り裂けそうな痛みを和らげることが出来なかった。騎士たちは死の痛みを知っているのに、心の痛みごときで涙を流す自分の弱さを悔やむ。声を出して泣き叫びたかった。
天に昇り、そこで待ってくれる皆に謝ろう。そんな風に思っていた――ところだった。
「なぁ・・・・・・そういえばよぉ」
どこか分からないところから声が聞こえてくる。馴染みのある声だ。
「同じ意思なのに何で違うか、教えるの忘れてたわ・・・・・・」
おかしい。もう斬られていい時間だ。なのに何故だろう。刃と刃がせめぎ合い、擦れる音が馴染みある声とともに聞こえる。
「守る意思っつーのは、つまりこういうことだよ」
呼吸が乱れている。額、腕、体――所々から血が流れ、雪国とは程遠い衣装、半袖半ズボンの布が裂けていた。振り下ろされようとした大剣を受け止めるのに精一杯なのか、足がガクガク震えてる。
それでも、彼は意思の力で己が身を奮い立たせている。レティナ=フォン=ヘレメリカを守る力が、彼を奮起させている。
行動で彼は“守る意思”を示した。
瓦礫に埋もれた状態から、常人には成しえないくらいの速さと力でエルの攻撃を防ぎきって見せたのだ。とても見習い騎士とは思えない力を発揮する。くどいようだが、それは守る意思が強さに変えてくれたのだ、と彼は言うだろう。
コルトバ=ユース。
エル=ベルトランとはまた違った化け物を飼いならす男。しかし、その化け物は決して悪魔と比喩しているわけではない。守る存在がいることによって悪魔同等の力を持つことが出来る――それは正に潜在能力。潜在能力という化け物をコルトバは飼いならしているのだ。
悪魔以上に無限の可能性を秘めたその力は――
再び、エル=ベルトランの攻撃を弾き飛ばした。
「コルトバ=ユース!! どこまで俺の邪魔をするつもりだァ!」
憤りから自我を失いそうになった。口を大きくあけ、牙を剥き出しにしてコルトバに怒りの感情をぶちまける。
「これが違いだよ」
額から垂れる血を拭い、剣でなんとか体のバランスを保ちながらコルトバは言った。そして彼は続けて言う。
「破壊とかいう意思は、そうやって結局自分の身を滅ぼすだけだ。お前も気づいて、認めているはずだ。ただの力だけでは強くなれないとな」
そう言うと、コルトバは体を支えていた剣を雪で埋もれた道にソッと置く。
「あとは分からせるだけ。そんな奴は“コレだけ”で十分だ!」
装備を捨てた彼に残る最後の武器――それは拳だった。
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