ハヤトは焦っていた。何もない部屋の得体の知れない裸の男と二人きり、しかもそいつは気を失っていて、ということは!
「これじゃあまるで・・・私がこの場で・・・マズイ!まずいぞ・・・」
そんなハヤトの心配をよそに、部屋の扉は乱暴に開かれ、少し年季の入った女性が顔を出した。
「あらっ!」
その女性は(当たり前だが)非常に驚いた様子で、開いた口が塞がらないといった感じだった。
「いや!これは私が来た時には既にこうで・・・!!!」
「これ!あなたがやって下すったんですか!?」
「え?」
「あら?」
二人がほぼ同時に喋ったせいでよく聞き取れなかったらしい。
「いや、だからこれをしたのは私ではなく、ここに来たことすらも覚えていないのです」
気絶させたのはハヤトだが、これくらいの嘘は許されるだろう。
「あらあらまあまあ・・・それじゃあこの子が自分で全部捨てたのかしら・・・?いやいやそんーなことはありえないわよねえ・・・・・・」
女性はとても信じられないわ、というようなことをぶつぶつ呟きながら、部屋を出て行ってしまった。
「知らない者が部屋にいることには突っ込まないのか・・・?まあそれはいいとして、いくつかの手がかりを得ることができた」
この部屋には最初から何もなかったのではないこと。
床に転がっているこの男の名前は「霧骸」であり、家族間では相当ズボラなものとして扱われているらしいこと。
私の服装が不審に思われる場所ではないらしいこと。
「あの女性もなかなか変人臭かったし決まったわけではないが、まとめるとこんなところか。少なくとも情報収集をするのに障害がある環境ではなさそうだな・・・。よし」
さらなる手がかりを得んとし、部屋を出ようとした瞬間、足を引っ張られた。
「うぉっ・・・!!」
危なく転びそうになるが、なんとか立てなおして振り返る。
「こいつ、起きているのか!?」
どうやら霧骸というらしい男の意識が戻っているのではと危惧したが、そいつはいよいよ大きないびきをかいて、疑いようもなく熟睡していた。
「あまり驚かせてくれるな・・・寝相の悪いやつだ」
そう言って再び部屋を出ようとするが、またも足を引っ張られる。
「ぬ・・・ふん!」
今度は慌てることなく振り払い、もう一度意識の確認をした。やはり、霧骸という男は間違いなく寝ていた。
「何なんだ一体!こんなに寝相の悪い奴は初めて見た・・・・・・頼むから、もう動いてくれるなよ・・・?」
扉の反対側の隅にそっと移動させてから、今度こそ部屋を出た。そのまま特に障害なく玄関の扉から外に出る。
「う・・・やはりか」
予想はしていたが、見慣れた様子とあまりにも違う町並みに目眩がした。
「すー・・・はー・・・すーーー・・・・・・ふう・・・」
幾度か深呼吸をした後、歩き出す。そうすると、ここへ来てから萎えかけていた剣士の魂が、再び燃え上がるようだった。
「元いた場所に戻らねば・・・信ずるものを・・・愛するものを、守らねば・・・!」
つづく
霧骸ちゃんの意識戻すのこわい
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