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路地を駆けていると、耳を塞ぎたくなるほどの轟音が、近くの大通りで響き始めた。
この音は機関銃だ。
それも一丁だけではない。二丁だ。
さらに拳銃や散弾銃の発砲音も聞こえるが、それは機関銃の轟音によって徐々にかき消されていく。
エリオットは複雑な路地を駆け出し、大通りに出た。
その時には銃声が鳴り止んでいた。
地面には大量の住民達の死体が転がっており、目の前には二丁の機関銃を肩に担ぎながら、大通りを歩いている黒人男性がいた。
「動くな!」
エリオットはその黒人男性の背中に向けて、拳銃を突き出した。
黒人男性はエリオットの声を聞いた途端、いかにも嬉しそうな声で笑い声を口から吹き出した。
「何が可笑しい。大人しく銃を地面に」
置け。と言おうとした時だ。
「ヒッヒッヒ……久々だなァ。エリオット」
呟きながら男は振り返った。
その満面の笑みを浮かばせた顔を見て、エリオットは思わず拳銃を下げそうになった。
目の前に居た男は、大学生時代に親友だったマックスだったのだ。
「マックス……銃を捨てろ」
「つれねえな。大学以来の再開だぜ? 親友同士のハグも無しかよ」
「13年間も会ってなかったんだ。挨拶の仕方なんて忘れたよ。それよりも銃を捨てて、大人しく投獄しろ」
「ははははっ。流石ニューヨークのエリート警察官サマだ。友情よりも仕事が大事か」
「……最終警告だ。俺はお前を撃ちたくない」
「へっ、撃ってみろよ。お・ま・わ・り・さん」
笑みを絶やさず、マックスはゆっくりとエリオットに近づいていった。
拳銃の照準先がブルブルと震える。
歯を食いしばり、どうにかして手ブレを抑えようとするも、ますます震えが大きくなる一方だ。
このまま引き金を引いてしまうと、何か大事な物が砕け散ってしまう。本能がそう訴えていた。
諦めたエリオットは拳銃を下ろした。
「……ダメだ。俺はお前を撃てない」
「へっ。この根性無しが」
言ったその途端、マックスはエリオットを突き飛ばし、二丁の機関銃をエリオットに向けた。
そして笑みを浮かばせながら、引き金に指を当てた。
「俺はお前を撃てるぜ?」
「マックス……おまえ本気なのか」
その問いに対し、彼の笑みは深まるばかりだ。
引き金をゆっくりと引くその姿に嘘はない。
確信したエリオットは、素早く立ち上がり、駆け出した。
同時に、マックスが持つ二丁の機関銃が火を吐いた。
「走れエリオット! 走れ! 再開を記念してパーティを開こうぜ! ヒッヒッヒッヒ!!」
弾丸が直撃したコンクリートの床が爆ぜる。
鼻先に掠る。
エリオットは必死の思いで駆け抜け、建物の陰に身を隠した。
奇跡的にも無傷だった。
しかし無事を喜ぶ暇もなく、マックスは未だに撃ち続けていた。
エリオットが隠れた建物に弾丸が直撃し、大きく削りとられていく。
このままでは跳弾の危険性もある上、武力の差が大きい。
第一に、目標はトミーを連れ戻す事だ。
そう判断したエリオットは、マックスとの戦闘を避ける事にした。
「すまないなマックス! 今お前に構う暇なんてないんだ!」
そう叫び、複雑な路地の奥へと消えていった。
「逃げるな臆病者が!」
彼の後を追おうとしたマックスだが、その直後に携帯電話が鳴り響いた。
苛立ちながらも電話を取り、耳に当てる。
電話の相手はデュークだった。
「マックスか。今すぐシマへ戻れ」
「なっ……冗談じゃねえ兄貴! 今いいとこなのによ!」
「騒ぎを大きくしすぎちまったんだ。州軍が暴動を鎮圧しに来てもおかしくねえ。もうじき迎えのヘリが来る。パクられたくはないだろ?」
「……ッチ。分かったよ兄貴。今戻る!」
渋々と携帯電話を切ると、マックスは二丁の機関銃を担いだ。そしてエリオットが逃げた先の通路に視線を向けると「運が良かったな」と呟いて、自分のシマへと戻っていった。
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