「…っ」
人ごみを掻き分けひたすらに。
迷惑そうな視線も、興味を含んだ視線も、突き刺さる視線をかわすように。
ただ、走る。
その時。
「きゃっ!」
ぶつかった反動で体が後ろへ飛ぶ。全速力で走っていたから、その力は余計に働き、私にしりもちをつかせた。
「ぁ、すみませ…って稲葉君!?」
気づいて名前を呼ぶころには既に、先ほどのことなど無かったかのように、いつも通り飄々とした顔つきの稲葉君が、私に手を差し伸べていた。
「ん、ありがと。」
「元気ないね、どうかした?」
私の身長に合わせるかのように、稲葉君が少し屈んで私の顔を覗き込む。
心配そうなその顔に、涙が滲んできそうだった。稲葉君はあ、という表情になり、私に提案する。
「あそこにカフェがあるんだ。気晴らしに行こうよ!」
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「小梅何処だよ…?」
俺のせいで泣かせてしまった。
「俺ってホントヘタレ…。」
小梅を探しに外へ出て、走る。
「ぅわっ!」
その時。誰かにぶつかりよろける。
「あ…すみませ…え、エル君!」
ぶつかったのは同じクラスのアクアだった。
くりくりの堂顔を向けて、らんらんと目を光らせていた。
「何々何々?元気ないねーどしたどしたー?」
「え、いや別に…」
アクアはふぅん。と呟いて俺に提案した。
「あそこにカフェがあるの。気晴らしに行かない?」
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暗い部屋。ぼんやりとする光の正体は、ディスプレイ。
そんな部屋の中、たまごかは満足そうに言う。
「ふふふっ計画通り。演技が巧くて本当に良かった。」
すると、後ろから不満げな声が掛かった。
「…おい。」
「何よ?」
ふいっと振り返ると、額にしわを寄せた精神がいた。
「何するつもりだよ。」
「何するも何も無いわ。聞く必要ってある?」
「お前の行動は意味わからん。っていうかそもそも俺を呼び出したのはツインテの情報教えるためであって、こんな変なことさせられるためじゃない。」
どこまでも理論的で誠実。ツインテの情報なんて会って話さなくてもいいことくらい分かってるんじゃないの?
「そんなの作り話に決まってるでしょ。そうでもしないとあんた参加しないから。」
精神が、怪訝そうに寄せていた眉を吊り上げた。胸倉を掴まれ怒鳴られる。
「人の人生なんだと思ってんだよ!?人利用して、お前はなにがしたいんだよ!」
「そんなの知ってるでしょ?まぁ今回は許してあげる。いい演技、期待してるわ。」
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