<take2>
俺はすぅーっと息を吸い込み、そして―――
「お前たち!!いい加減にしろ!!!」
そう、これだ。
二人を止めることが最優先。
大声で怒鳴ると、さっきまでの激しい雰囲気は嘘かのようにしーんと静まり返った。
二人は唖然としてこちらを見ている(今初めて俺の存在に気付いたような感じだ)。
長い時間が過ぎたような気がしたとき、二人がハモって言った言葉は。
「「お前、誰だ?」」
・・・ははは、そうなるよな。
分かってる。いつものことだ。気にしない気にしない・・・。
とはいっても、やはり傷付いてしまう。
「・・・部屋を間違えました。すみません。・・・失礼します。」
名乗るのも億劫になってしまい、こんなことぐらいしか言えなかった。
扉を閉め、元来た道を戻る。
後は、誰がいただろうか。
暫く考えて、そして思い出した。
(・・・ああ、そうだ。フリードだ。)
フリード。
その名を持つ人物に俺は期待した。
彼ならきっと覚えてくれているはずだ。
この俺に、生きるきっかけをくれた人物だから。
そうして、俺は僅かな希望を胸に彼がいるであろう庭へと向かったのだった。
案の定、そこに彼はいた。
後ろ側からなのでよく分からないが、頭を下に向けているあたり本でも読んでいるんだろう。
俺はそっと近づき、声をかけた。
「なあ、フリード。今日の夕飯は・・・」
「あー。今日はカレーが食べたい気分だな。」
「っ!?」
気付いてくれたのだろうか。
「か、カレーがいい、のか?」
「それも大盛りがいいな。皿いっぱいに盛られたカレー・・・はあ、考えただけで腹が空いてきた。」
「・・・!」
本当に、本当に気付いてくれた・・・。
思わず涙が出てくる。
嬉しかった。自分の存在を覚えていてくれる人がいたのが。
(・・・はは、泣くなんて、みっともないな。)
「分かった、じゃあ今日はカレーにするな。フリードのは、大盛りで!」
目を擦り、そうと決まればと急いでキッチンへ向かおうとした。
だが、そのとき俺は衝撃の言葉を耳にしてしまった。
「はあー、今日は誰が夕飯当番だったっけな・・・。カレーだったらいいんだけど。」
「・・・・・・え・・・。」
「まあ、一人で考えてても仕方ないか。みんなにでも聞こっと。」
これは・・・
(独り、言・・・?)
悟った途端、身体中の力が抜け、地面にへたり込んでしまった。
希望は・・・消えた。
―――ああ、どうしてあの時、存在を捧げてしまったのだろう。
あのときの俺はどうかしていた。
ヒーロー気取りのつもりだったのだろうか。ほんの軽い気持ちでやったのだろうか。
はたまた、何も考えずにやったのだろうか。
もしできるのならば、タイムワープして過去の俺を思いっきり殴ってやりたい。
そして、諭してやりたい。
こんなに辛い思いをすると分かっていたのなら・・・きっと・・・俺は・・・。
「なーんてな。」
どこからか声が聞こえた。
その声にゆっくりと顔を上げる。
「君がいたのは、最初から分かっていたよ。」
フリードだった。
「ごめんな。実は俺たち、君にサプライズをしようと思って1ヶ月ぐらい前からワザと気付かない“振り”をしてたんだ。」
そう語る彼の背後には、いつの間にかみんながいた。
「サプライズ、って・・・?」
「うん。約1ヶ月前、7月23日は何の日だったか分かる?」
「7月23日・・・?・・・あっ!ま、まさか・・・。」
「そう!君の―――、」
「“誕生日”だよ!!」
・・・ああ、そうだ。
辛い思いをすると分かっていたとしても、俺は何の躊躇いもなく自分の存在を捧げるだろう。
だって、俺には・・・大切な“仲間”がいるから。
守るべきものがあるから。
時には喧嘩し、仲間割れをすることもあった。
だけど、それでも、次の日には何事もなかったかのように笑いあってた。
誰かがくじけそうになった時も、皆で協力して支えあってきた。
素の自分を曝け出すなんてどうってことない。
自然体のままでいられる。
自分に生きる意味を与えてくれた、かけがえのないもの。
それが、仲間というものだから。
(はあ、今まで何を落ち込んでたんだろうな。)
「じゃあ遅くなったけど・・・改めて、祝福の言葉を!!」
「隠月、」
皆が持っていたクラッカーの紐を引っ張り、大きな音が鳴る。
「「「「「誕生日、おめでとう!!!」」」」」
大切なもの。
守りたいもの。
それがあるから、俺は生きていくことができるんだ。
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