メイプルストーリー

おしゃべり広場

キャラクター名:
アトラスs
ワールド:
ゆかり

冒険手帳を見る

創作物語

Street Noises 6-3 日付:2015.06.27 04:29 表示回数:656


-3




ヒカルは、微かに自分の肝が冷えていくのを感じていた。

もしかしたら、俺は自分の好奇心のためだけに、とんでもない奴を家に招き入れてしまったのかもしれない。

そもそも元々は、あの白い死神とやらと戦った疲れを癒すために、俺の家に来たんじゃなかったか。それがなんで長期滞在するみたいになってるんだ。
こいつ、死神というより、モンスターばりの神経の図太さだ。

ちらりと、その男の顔を見る。
伊月は全くもって涼しい顔で、通り過ぎてゆく様々な店先をきょろきょろ眺め回していた。
本当に何とも思ってないのか?それとも今のは冗談だったのか。
そうであって欲しい、とヒカルは心底願いながら、伊月に話しかけた。

「なぁ、確かに物置部屋使っていいとか言ったけど、そんな長い間滞在するなんてさすがに無理だよ。親にばれたら俺が怒られるんだぞ」

つと、彼の赤い目がこちらを向いたとき、唐突につんざくような叫び声が聞こえた。
少し高い、少女の悲鳴だった。

「やめてよ!嫌!離してって!」
だいぶ、切羽詰まっていそうな声色だった。
前を行く通行人もみんな足を止め、声のした方を向いている。
視線の先には、こじんまりとしたビジネスホテルがあった。
建物の入り口付近で、Yシャツ姿に茶髪のチャラそうな男が、制服姿の少女の腕を掴んでいる。少女は、なんとかその手から腕を抜こうともがき、男の脚を蹴ったりしている。
よく見ようとさらに一歩近づいてみて、ヒカルはぎょっとした。
あれ、俺の高校の制服だ。

助けなければという正義感でもあるのか、それともただの好奇心なのか、もう一歩と進み出す伊月の隣で、ヒカルはくるりと回れ右をした。
「どうした?」
「悪いが、用を思い出した。先に帰る。おまえはゆっくり見物してればいい」

その場に伊月を置き去りにして、そのまますたすたと歩き出す。
ホテルに向かって次々集まってくる野次馬の波を掻き分け、力ずくでずんずん進む。

もう、知ったこっちゃない。伊月があの女子に気をとられている間に、俺は家に帰って、家の鍵を閉めて、あいつを締めだしてやればいい。
玄関も窓も全部閉めて、もし戻ってきても、知らぬふりだ。
虚言の内容自体はまずまず面白かったけど、とにかくあいつのずうずうしさを甘く見過ぎていた。


「嫌、イヤ、離してよ馬鹿!誰か…」
遠くで同じ高校の女子の声が聞こえる。
まぁ、あれだけ野次馬がいれば、誰かひとりくらいは親切な奴が助けに出るしれない。
もしかしたら、もう伊月が助けに行ったかもな。あいつ、喧嘩は強いようだし。
そういえば…あの女子、どこかで見たような。
まっすぐ家に向かって歩きながら、ヒカルは何となく考え始めた。
長い黒髪。よくある、女子高生らしいぱっつんの前髪の作り方と、薄化粧。遠目でよく見えなかったけど、結構可愛かった気がする。
ふと、数ヶ月前の高校の廊下で、グループをつくって駄弁っている姿を思い出した。
確か…“山本”。だいぶ前の学年合同の授業で、教員に山本って呼ばれてたはずだ。


そのとき、目の前に、妙に大きな影が落ちた。
反射的に足を止める。
なんだ、誰かデブな奴でも立ち塞がってるのか。
この街、歩いてるとたまにいるんだよな。自分はどかずに堂々と立ち塞がって、相手がどくのを待つ奴。
胸の内で愚痴を吐き、顔を上げる。

黒く大きなマントをはためかせながら、肩に青黒い大鎌を背負った、片目の潰れた大男がヒカルを見下ろしていた。

スタンプを押す

スタンプ(1

コメント

  • コメント(1

おしゃべり広場の一覧に戻る

変更する

×