「あった!」
しばらくして彼女は、妖精は歓喜の声をあげた。
「本当ですか!?」
丁度、幾つかのナイフが入ったケースを手に取ったところだった。それを一度置いて、急いで妖精の元へ向かう。
思えば、何を探せばいいのかさえ把握していなかった。自分の気の抜け具合に苦笑する。
「これよ」
見るとそれは、黒い革製の手袋の様だった。不思議な箇所は特になく、市販で売られている様なもの。
「これですか? 一見、唯の革で出来た手袋の様に見えますが」
「唯の手袋じゃないわよ!」
彼女は目を輝かせながら言う。
「ここにあるもの全部隣の武具屋から貰ったものだって言ったけれど、実は少しだけ他のルートから仕入れた物があるのよ! その中の一つがこれ!」
そこまで言われると、凄いものの様な気がしてきた。
「これは、その昔メイプルワールドの偉人達が協力して作り上げた物の一つ。絶対に裂けないし燃えないし溶けないし凍らないし使用者の体温に応じて内部が適温に変化するという代物よ!」
「は?」
思わず耳を疑う。
「簡単に言えば、絶対に壊れない便利な手袋ね」
「ちょ、ちょっと待って下さい! そんなもの受け取れませんよ!」
「なんで?」
「だって、その話を聞く限り何かの神話に出てくる様な代物ではないですか!」
「そうよ」
「へ?」
「これと一緒にくっついて来た紙に書いてあったのよ。 〝絶対に裂けず、燃えず、凍てつかず、溶けず、使用者の体温を認識し、気候に応じ温度、湿度を変える。適用者をどんな災厄からも守る手袋。悪しき者は地を這い、正き者は地を歩く。これを貴方に授ける〟 ってね。意味不明すぎて読み返すうちに暗記しちゃったわ」
聞けば聞く程恐ろしい代物だ。
「一体どうやって・・・・・・いや、誰から? いや、何方から受け取ったんですか?」
「ハインズ様」
ハインズ様と言えば、メイプルワールド有数の大賢者じゃないか―――。
「ハインズ様が偶にオルビスに来た時、必ずこの店に寄ってくれるのよ。で、何回か通い詰めた後、これを私にくれたの。『その手袋に付いている紙は唯の偽りの伝説で、本当の所は唯の防刃設計になっている革製の手袋だ。これを君にあげよう』ってね。なんでいらっしゃるのかは分からないけれど、聞いたところでは私の親が関係してるらしいわ。昔いろいろあって、そのお礼なんだって」
「―――伝説ですか」
「そう、伝説。まあ神話と同じ様なもんよね」
聞けば聞く程恐ろしい良品だ。
「これは、受け取れませ―――」
「おっと、駄目よ。絶対に貰ってもらうから。そういう約束よ。私はあなたに物をあげて、あなたは私に何かをくれる。そういうね」
「なんてこった・・・」
「それに、」
彼女は笑って言う。
「シグナス様から言われて旅に出たんでしょ? そんな人が死んじゃったら、シグナス様悲しくて泣いちゃうわ。私もね」
私は、何かを言おうとした口を静かに閉じた。
「分かりました。受け取りましょう、ありがとうございます」
女性を泣かせるのは酷い人間のするものだ。私は、そういう人だけにはなりたくない。
それに、私は一つ考え付いた事がある。
全て終わった後、返しに来れば良いのだ。
自分の頭のキレ具合に、私は少し心が弾んだ。
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