妖精から黒い手袋を手渡され、早速嵌めてみる。
「うおっ」
瞬間、手袋は何かの力を得た様に怪しく光る。
「へえ、こうなるんだ」
目の前にいる妖精が呟いた。思わず目線を手袋から彼女の顔へ移す。こうなる事を知らないで着けさせたのか。
少しすると、光は消えた。
「どんな感じ?」
そう聞かれても、ただの手袋とあまり変わらない。ただ、着け心地が半端なく良い。
素直にそう答えると、
「そう。じゃあちょっと一回外してみて」
そう言って立ち上がり、刃物を探し始める。
私は先程見付けたナイフの場所を教えて、手袋を外した。取る際は何も起きなかった。
「これね」
ナイフの入ったケースを両手で持ちながら、彼女は元の位置に戻る。
「本当に防刃製かどうか確かめるわ。ちょっとダンボールの上に置いて」
言われた通りにして、彼女はナイフを手袋に突き立てた。
無傷。見たところ、傷一つ付いていない。
「もっかい」
今度は掛け声と共に突き立て引き裂く様に動かす。
「おー、防刃は本当みたいね」
これまた傷一つついていなさそうなので、今度は手袋を嵌めて確認する。
先程と同じ様に光ったが、少しして消えた。
「うん、大丈夫みたいです」
「おー、じゃあちょっとやってみよっか」
「へ? 何を?」
「これよ!」
ていっ!という掛け声と共に、私の右手に嵌められている手袋へナイフを振り下ろす。
「ひっ!」
少しだけ衝撃を肌で感じて、思わず目を瞑った。
「ふむ、流石ね。これなら多少は問題なさそう」
恐る恐る目を開けると、血は出ていない様だった。痛みも無い。手袋は相変わらず無傷で、素直に私の手を覆っていた。
余りの出来事に冷や汗を欠いて絶句する。
「ごめんね。ちょっと試したかったのよ」
ナイフをケースにしまいながら彼女は言う。
「し、死ぬかと思いました」
「死にゃあしないわよ、最悪右手が無くなるだけ」
「重症じゃないですか」
「最初のテストで刃物が効かないと分かってやったのよ、へーきへーき。さて、これお詫びにあげるわ」
何本かナイフが入ったケースを手渡される。ここまで来ると受け取る以外に手段が無さそうなので、ありがたく頂く。
グリップの部分が革で出来ていて、刃先が良く切れそうな、良く出来たナイフの様だった。魔法石の明かりを反射し、刃が光り輝いている。デザインがカッコ良いのが、少し嬉しい。状態はすこぶる良く、新品同様で普通に店で売られていておかしくないレベルだった。
「さて、部屋を出ましょう。片付けはしなくていいわ、どうせ使わないしね」
それが今回の様な出来事を招いたのではないだろうか。
そう思ったが、口には出さなかった。
右ポケットに手袋を畳んで入れて、少しだけ懐かしい様な感じがする部屋を歩きながら、ナイフケースを両手で運ぶ。
部屋を出て最後に室内を見た後、奥の壁に掛けられた、一際大きい刀剣と目が合う。 魔法石の明かりが消えると、その刀剣は闇へと消えた。
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