なんだかんだあり、防刃設計の手袋とナイフを貰う事が出来て、私は今、上機嫌だ。
その手袋が昔のとある人物達が作ったもので、メイプルワールド有数の大賢者であるハインズ様が話に絡んでいなければ、私は今頃頭の中で、赤茶色の煉瓦造りの家々が立ち並ぶ並木道を、十年に一度くらいの晴天の中、大きな楽器を持った音楽隊が愉快な演奏をしながら行進し、空には色とりどりの紙吹雪が舞い、家々から住人が顔を出しながら黄色いハンカチを一心不乱に振っている・・・・・・。
という想像をするくらい喜び狂っていただろう。
顔には出さないが。
さてこれからどうしようと悩み耽っていると、この手袋を私に貸してくれた妖精が、面と向かって言う。
「今、寝室でアクアさんが荷物を纏めてるんじゃない?」
そうだった。
「すみません、遅れました」
扉を開けて寝室へと入る。
荷物は私と妖精が別の事をしているうちに、邪魔にならないよう寝室へ全て運んでくれたようだ。
「いいわよ、別に。そっちはどうだった?」
「防刃設計になっている革手袋を貰いました」
オブラートに包んで砂糖で煮詰めた後蜂蜜漬けにした説明をする。
「それは、結構便利なもの貰ったわね。手袋なら筋力に関係無く着けられるし、移動中邪魔にもならない」
「ああ、そう言われてみれば余計に便利な物ですね」
「それはそうと、こっちももうじき終わるわ。もうちょっと待ってて」
「いや、せっかく来たんですから手伝いますよ」
「何よ、私の下着に興味あるの?」
私は頭を横に高速移動させる。それこそ首が外れるんじゃないかと思うほどに。
「では、待ちます」
その場にストンと落ちるように座り込む。アクアさんと目が合い、そこで私はもう一つの問題に気付く。急いで座ったまま両手で体の向きを回転させる。
「よろしい。と言っても、半分嘘だけどね」
「えっ」
「今振り向いたらモンスターから守る前に私が貴方を殺すから」
「はい」
どうやら男性が見てはいけないものを扱っているのは確かなようなので、私は大人しくする事にした。
暫くして、彼女が体を伸ばす声が聞こえた。
「あー、やっと終わったわ。疲れたー・・・」
「お疲れ様でした。もう振り向いても宜しいですか?」
「いいわよ」
許可を得たので、私は彼女に向かい直す。荷物の上に片手を乗せて休憩している彼女に、私は複雑な気持ちを覚えた。
「本当に、自分だけ何もしていませんね・・・」
そう呟くと、彼女はいつもの無表情でこう言った。
「いいのよ、本当に。私が好きでやってる事だし、こればっかりはどうしようもないわ。経験の差ってのもあるしね」
そう話す彼女の口元が、恐らく本人は気付いていないだろうが、少しだけ緩んだ気がした。
「そうですか」
「そうよ。・・・・・・さて、じゃあいつまでもこうしている訳にもいかないし、とっとと行きましょうか。このままだと日が暮れてもう一泊する事になるわ」
「そうですね」
そんなやり取りをしていると、タイミングを見計らったかのように妖精が部屋に入ってきた。
「終わったかしら?」
「ええ、ちょうど今」
「そう」
そこで一度区切って、
「もう、行くのね?」
「はい。これ以上迷惑を掛けるわけにもいきませんし、早めに片付けたい用事なので」
「そう。じゃあ、見送りさせてね」
「もちろん」
そう話して、アクアさんは立ち上がると、私の元へ歩いてくる。
「これ、あげる」
目の前にカバーを掛けた短いナイフが差し出された。私はグリップを握り、ズボンの右側面にあるポケットにしまう。
「ありがとうございます」
その動作に彼女は少し驚いたのか、目をほんの少し見開いた。本当にほんの少しで、まったく面識が無い人間から見れば全く気付かないくらいだった。
「今回は結構素直ね」
「何を言っても無駄だと思ったので」
「良い判断ね」
そう言い残し、妖精の後に続いて部屋を出る。私も慌てて部屋を出ようとして、最後に室内を見渡した。
「本に囲まれた部屋か・・・・・・」
とても良いものだ。
「私もいつか欲しいものだな」
そう残して、その部屋を後にした。
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