「……なあ心紅。これからどうなんのかな。あたしら」
「知らないよ」
と
僕は言わなかった。
軽口でもこんな状況でそれは言えない。もっとも、そういう状況でも軽口を叩けるような彼女の精神力及び、肝っ玉の座った具合は計り知れない。
知れなくても僕は理解しているのだけれど。
こんな状況――僕とシシジシマは恥ずかしながらドジを踏んでしまい、二重スパイをしていたとバレてしまった。そして今捕まっているという状況だ。
「即処刑」とならなかっただけ幾分ましな状況ではあるのだが、しかし周りから銃口を向けられるのは心底辛い。命を今にも崩れそうな崖の上に置いているようなものだ。
「この任務が終わったら心紅と一緒に『新大陸』に行こうと思ってたのにね。残念だよ。この状況は」
「…………僕は」
『新大陸』なんてどうでもよかった。第一『新大陸』側からしたらこちらの方が『新大陸』――いや、未開の地、または発展途上の島とでも称すだろう。話に聞けば『新大陸』の方は魔法を使えるやつがわんさかいるらしいし、銃も普及している。その上近接武器や、素手で銃を圧倒するという輩も大勢いるとのことだった。
『新大陸』――いや『新世界』。
「《メイプルワールド》――そんなところへ行ってどうするんだ? 何を成そうがお前らなんぞ、あっちの人間からしたら下の中に過ぎんぞ?」
そう言ったのは『コヨーテ盗賊団』の頭だった。
名前は覚えていない。正直僕にとって名前というものはどうでもいいものだ。名前なんて記号に過ぎない。
僕の春雨 閑南という名前にしたって、シシジシマが呼ぶ『心紅』というのも僕を表すためのタダの記号だ。
「夢があるんだ。冒険ってやつは楽しまないといけないからね。夢を持って自分が自分である誇りを決して手放さない――それがあたしの生き様だ」
「そうか死に様を晒す前に生き様を示すか――洒落たやつだ。だが、無意味だ」
「僕はそうは思わない」
――!?
おっと。口が滑った。言うつもりはなかったのに。思っていただけなのに。
僕はシシジシマが言うことに肯定していたわけでもない。
否定も、いや、考えることすらしなかった。
なのに……。
「ああ、そうか――僕は羨ましいんだ」
シシジシマが。
タダの空想で、ただの隣にいるヤツという認識しかしてなかった。
だけどシシジシマが掲げるそれは――僕の羨ましさそのものだったんだ。
「でもやっぱり空想だよなあ」
「あ?」
「僕は英雄じゃないし、ましてや世界征服を企む悪の大魔王でもない」
じゃあ僕は一体何なんだ?
決まってる。
タダの空想だ。
空想でいて、空虚でいて、架空だ。
「だから、僕がすることはタダひとつだけだ――僕ができることはひとつだけだ」
僕は多分その時のことを鮮明に覚えている。
「完結させるだけだ。この馬鹿げた空想を――終始クライマックスのこの空想を」
いや、やっぱり覚えていない。
覚えているのは、シシジシマの驚く顔を、その時初めて見たという結果だけだった。
そして僕とシシジシマは『新世界』――《メイプルワールド》から来る冒険者と会することになる。
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結局メイプルと絡めてみました。
いや、絡めるつもりはあったんですけどね。
主人公の心情の流れが早すぎて読者を置いてきぼりにしてる感はありますが、
そこはご愛嬌。
正直深夜テンションで書いてるので矛盾だらけ。
創作に復帰してる人がいて、テンションが上がったので書いてみた所存。
黒歴史となる僕が中毒衝動を起こした時の文章をちょっとだけ蘇らせてみました。
続きは多分書くんじゃないかな?
いつになるかはわからないけれど。
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