雲の上に、植物が居た。
しかし、その植物は他の植物と大きく異なっている。頭部は大きな蕾のような形状を持ち、その先端からは黄色みがかった強い酸性の液体が絶えず漏れ出て、根元付近から長い触手が二本うねりを打つ。
この世界で、俗に言う〝モンスター〟の類。
獲物を見つければ、その酸性の液体と触手を駆使して捉えるという捕食方法を身につけていた。
―――ただし、
「六本あります」
「そう。私がやるわ」
「分かりました」
ナイフポーチからナイフを一本取り出す。
刃先を自分の方向に持ち直して、アクアさんに丁寧に手渡す。
「では、予定通りに」
「気を付けて」
短い会話を終えて、私はそこから心を落ち着かせた。
「いきます」
「はい」
そして私は全速力で雲の上を駆ける。地面がもこもことして走りにくいが、そんな事は問題では無かった。
モンスターがこちらを向く。どうやら私の存在に気付いたようで、消化液のようなものを飛ばすべく〝溜め〟に入った。
茎を前に乗り出し体を大きく反って、奴はいよいよ消化液を飛ばす体制に入る。
―――今だ!
私はその動作を視認した瞬間、足を滑らせるように姿勢を低くして雲の上を左斜めの方向に滑り込む。
その一瞬の動作にモンスターは消化液を飛ばさず、再び狙いをつけるため蕾を動かす。
「ナイス」
滑り出した私の頭上を、声と共に影が覆った。
瞬間、突如として現れたもう一人の人間に植物は慌てて狙いを定め、その蕾を開いた。
跳躍し私を飛び越えて行った女性は、右手にナイフを構え、その蕾の中へナイフを投げ込んだ。地面に片方の足が着地した瞬間、私と同じように右斜めの方向に滑り込んだ。
モンスターが消化液を飛ばすよりも速くナイフは風を切り裂きその生物の〝急所〟と雲を縫い付ける。
固唾を飲んでその光景を見ていると、奴は黒い霧となり、風に乗って何処かへ消え去った。
―――ただし、奴の目はあまり良くはない。
「上手くいった・・・・・・」
「なかなか凄いこと考えつくわね」
気が付くと、目の前に女性の姿があって、手を差し伸べていた。
女性の力を借りて立ち上がっては格好が付かないと無いプライドを使い両手を付いて立ち上がろうとする。が、どうやら腰を抜かしてしまったらしく行動虚しく無意味に終わった。
「ははは・・・・・・」
彼女の手を握って、立ち上がる。
「ナイスファイト」
「ありがとうございます。見事でした」
モンスターが居た筈の場所を見る。
そこには、黄色い液体が付着した一本のナイフが、しっかりと雲に突き刺さっていた。
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