陽菜は小学校の同窓会に来ていた。普段のしがらみから逃れるため、そして余裕を見せつけたいからだ。
当時の友達と話していると、一人の男性が現れる。
「やあ。大きくなったね」
「ごめん。誰?」
「ミチルだよ。忘れるなんてひどいな」
クラスの人気者だったミチル。地味だった陽菜とよく遊んだ人物だ。
そのせいで付き合ってると噂されてしまい、自然に離れていった、それっきりの仲だ。
目を凝らすと、当時の面影が浮かんできた。
「ミチルくんじゃない。久しぶり! 元気にしてた?」
「まあ、ぼちぼちね」
「そうなの。どこで働いてるの?」
「まあ語らおうよ」
ふたりは手頃なテーブルに近づき、椅子を引いた。
テーブルに置かれた陽菜の飲み物は温くなる。陽菜は周りの騒々しさが遠い昔に感じていた。ミチルが必死につなぎとめるため、会話は継続されていく。
ミチルは小学校の話ばかりしていた。まるで時が止まっているようだ。陽菜は足をふらつかせている。周りの騒がしさが、陽菜の耳に騒がしさが帰ってきていた。
「会場を変えようか」
ミチルの提案でカラオケに向かった。その道中は、暇をつなぎ止めるために続けてる。
「陽菜、俺のこと好きだったんだろ。今も好きか?」
陽菜は目を剥いて、心残りがないことを知る。「いいえ。今はお付き合いしている人がいるわ」
ミチルは歩んでいた足を止める。陽菜は気づくのが遅れて、彼より距離が空いてしまった。振り返る陽菜はミチルを見る。
「俺も好きだったんだ。お前のことばかり考えていた。お前が成長しているのは仕方ないけど、いや、いやいや俺の話をしよう」
ミチルは目が血走っている。陽菜の中で期待していた心が冷やされていく。
「な、なあ。ひな。セックスさせてくれよ。イイだろ。前は、俺も好きだったんだ。俺さ、高校失敗してさ。ダメだったんだ。うん。惨めな思いした。君と別れたのが心残りだった。なあ、やらせてくれ。頼む」
ミチルが陽菜に寄りかかる。彼女は悲鳴をあげて、彼の胴体を突き放した。ヒールが外れても走る。陽菜は振り返らない。
「おい! ふざけるなよ! お前も俺を捨てるのか! なんで俺には恋人ができねえんだよ! 教えてくれ!」
ミチルの声は虚しく、夜の街に溶けて消えた。
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