メイプルストーリー

おしゃべり広場

キャラクター名:
アトラスs
ワールド:
ゆかり

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創作物語

Street Noises 8 日付:2016.11.28 03:39 表示回数:1061

8





暴れる男の胸ぐらを片手でつかみ、ぶら下げていたイツキは、ふと顔を上げた。


周りをぐるりと見渡す。辺りには、ただの聴衆しかいない。

こちらを見ながら隣とひそひそ話す者、止めようと足を踏み出したままうろたえている者。
以前にヒカルが使っていたのと同じような、小さな四角い機械をこちらに向ける者もいる。
もう少し視線を遠くへ投げると、さっきの気配の正体が分かった。
青白いスキンヘッドの巨漢が、黒いマントをはためかせながら、こちらにゆっくりと歩いてきている。

ああ、ちょっと目立ちすぎたか。
イツキは顔をしかめた。
手元では、息の詰まった男が呻いている。ぱっと手を離すと、男はあっさりとその場に崩れ落ちた。
女子高生はどこかへ逃げたのか、輪の中心にも、人だかりの中にも見当たらない。
「なんだよ、おま…」
ひどく咳き込みながら、辛うじて細い声で問うてきた男をその場に置いて、イツキは人だかりの方へ歩き出した。
さっきまで2人の喧嘩を見物していた人々は、突然イツキがこちらに迫ってきたことに驚き、どよめきながら慌てて道を開けていく。
『何者なんだ、あいつ』『大の男を片手で持ち上げるなんて』
間近でそんな声が聞こえる。
最後には力づくで人だかりを押しのけ、ようやく外にまろび出ると、イツキは立ち並ぶビルの下を走り出した。
走りながら振り向くと、相手も気付いたらしく、こちらに向かって動き出している。
この人通りの多い街中で、一般人の目に見えない鎌を振り回すのは得策ではない。かといって、肉弾戦になれば警察を呼ばれてしまう可能性がある。
おおかた向こうもそれを承知の上で、戦いづらい今のうちに捻じ伏せて連行するつもりなのだろう。
ただでさえ、あの駅前で一度やらかしてしまっているのに、これ以上目立つとこの街にいられなくなってしまう。
今はひたすら逃げ、撒くしかない。

信号が青に切り替わり、人が流れ始めた横断歩道を駆け抜ける。やはり人が多く、ぶつからないように避けるのが難しい。
すぐ傍らで、イツキと衝突しそうになった老婆が声をあげる。
入り口で騒々しく音楽を流している家電量販店のビル、看板もない小さなビル、様々な建物の前を通過し、タイミングよく青になった横断歩道を選んでは渡っていく。
ひたすら走って、走って、逃げ続ける。

逃げているうちに、気付けば道路の人通りはまばらになり、景色はきらびやかな電化製品の街から、飲食店が並ぶ静かな飲食店街に変わっていた。
後ろを見ると、そこにスキンヘッドの姿はない。
撒けたか。
イツキはようやく足を緩め、早歩きの速さで飲食店街を歩いた。
普段なら物色してるところだが、さすがにそんな余裕はない。土地勘もないのに、結構遠くまで来てしまっている。
さて、どうやってヒカルの家に帰るか。
思案しながら、歩き続ける。つい先ほどまで賑やかだった街並みは、奥へ行くほど閑静になり、建物の高さも下がっていくようだ。
しばらく歩き続けると、やがて飲食店の数も少なくなり、代わりに一様に白く四角い住宅が並ぶようになった。
こんなに似た家が並んでいて、人間たちは見分けがつくんだろうか。
そんなことを考えつつ、住宅街を通り過ぎていく。
周りを見渡しながらゆっくりと歩いていると、ふと、ずっと先にさっきの女子高生がいることに気が付いた。



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