◆初めてのログイン/チュートリアル
2DゲームのVR移植が、今までに何度かあった。
だが、その完成度はどれも同じようなモノ。
過度な期待をしてしまった。
そんなユーザーが悪いという意見もあるが、もう少し、もう少し夢を見せてくれてもいいじゃないかという意見も溢れかえっていた。
そんなさなか、割とポップな世界観で売り出すネクソン社が、看板タイトルメイプルストーリーをVR化で一気に打ち出した。
もともと2D版をプレイするプレイヤーも多数いるが、作り上げられた新しい物語、その完成度に既存プレイヤーのみではなく、他でも話題を呼び全く関係ない、新規ユーザーが爆発的に増えたのである。
その新規ユーザーの一人、──キジトラも。
キャラクターメイキングを終えてログインし、ログイン画面よりもさらに作り上げられた世界観に驚く一人であった。
◆メイプルアイランド/チュートリアル/キジトラ
「……す、すげぇ……」
大きな一軒家の目の前に一人に、髪を二つ結びにしたお姉さんが一人、腕を組んで待っていた。
「どうもいらっしゃい」
「あ、はいどうも」
大きい目、白い肌。
彼女の組んだ腕にのっかって自己主張する胸。
何だろう、少し照れるなあ。
もしかしてプレイヤーの人なのだろうか?
「私はマイ、チュートリアル用管理AIの一人で、これから君にちょっとした戦闘訓練を行うのさ」
「戦闘訓練? チュートリアル? 管理AI?」
話す言葉や、仕草が、どう考えても人間のものとしか思えないのに、マイさんは自分のことをAIだと告げた。
「驚いたかい?」
「はい」
「ふふふ、そうだろう? だいたいみんな驚くんだ……さて、ついておいで、新人君」
そう言いながらマイさんは家の方へと歩いていく。
「とりあえず、2Dだった頃とは違って、この世界にポータルという便利なものはないのさ」
ドアを開けて俺を招き入れる。
「まずは慣れてもらおうかな?」
そういって、マイさんはキッチンの方でお湯を沸かし始めた。
キョロキョロソワソワと周りを見渡すと、木造の家には、彼女の趣味だろうか、可愛いぬいぐるみがちょくちょく飾ってあった。
……そしてその隣に物々しい鎧と武器が各種。
ギャップがすごい。
「まずは、飲んでみて」
「あ、はい」
渡されたティーカップに入った液体を少し口に運ぶ。
なんだろう、少し青臭いけど飲めないことはないかな。
「気兼ねなく飲んだね? 次は腕を出して?」
「はい」
すると、マイさんは懐からナイフを取り出して、俺の腕を切りつけた。
「──ほわぁっ!?」
《…続く》
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