◆初めてのログイン/チュートリアル/キジトラ
びっくりした、いきなり腕を切りつけれたものだから、椅子からひっくり返ってしまった。
HPが一瞬で1になる。
血が流れている、やばい、この出血量はやばい、やばい。
なんだか腕も熱くヒリヒリして来て……。
めっちゃ痛……くなかった。
「痛覚設定は《オン/オフ》可能で、基本的にはオフになってるから安心だね。どれだけ傷を負っても痛くはないから」
「え? あ、ああ……」
あっけらかんとした物言いで、マイさんはそう言って赤い液体の入った小瓶を渡してくれた。
「チュートリアル用のHP回復薬さ」
「……これを、どうするんです?」
やっぱり飲むのかな?
「幹部にかけるだけでもいいけど、基本的に体内に摂取する。その行動をとったほうが効き目は100%だよ」
なるほど、とりあえず飲むより先に傷口にチョンと振りかけてみて確かめる。
光る十字の回復エフェクトが出現して、徐々傷が塞がっていった。
HPを確認してみると、徐々に回復していくが、ある程度のところで止まってしまった。
「体内に残ったダメージは、休むか、回復薬を直接取り込まないと回復しないから、気をつけてね」
説明によると、幹部に振り掛ける方法だと即効性はあるが、傷を塞ぐ程度でHPの大幅回復は期待できないらしい。
直接飲むと、多少の疲労も回復して言ってくれて、そしてある程度の間であれば小さな傷程度であれば勝手に癒えるということだ。
「でも、乱用すると動けなくなることもあるから、その辺は自分の体調と相談だね!」
体調……そういえば痛みは少ないが、なんだろう、腹のなかに異物を押し込まれたような不快感。
聞けば、痛み以外の基本的な感覚は忠実に再現されているようだ。腕を切られたときの恐怖心と焦燥感ったらもうね……それでも、ある程度はシステム面で緩和できるようになっているとのこと。
「あの、オンにしたらどうなります?」
「……やらないほうがいいと思うけどね。まあその分、痛覚をオンにしているとHPではわからない、自分の限界がわかるから、私個人としてはオススメかな?」
「私個人?」
「うん、管理側は基本的に痛覚はオフでというお達しだから。安全面を考慮してね?」
なるほど、とことんリアルな世界観を楽しむ要素の一つとして、痛覚設定のオンオフがあるみたいだった。
どっちにしようかな、オンとオフ。
一応試してみる。
「オンにしてみます」
「まあ、さっきの紅茶はチュートリアル用の死ななくなる特殊なものだから気兼ねなくやってみるといいよ」
そういう訳で、
《痛覚設定をオンにします》
やってみt──
「──い、ってええええッッ!!」
わかっちゃいた。
注射だって来るとわかってて構えていても、実際刺されたら痛いよね。
そんな感じだった。
だが、痛みとともにここが本当に現実なんだなって、感じてしまう。
マゾヒストではないけど、感覚って大事だったんだな、そう思えた。
「おお、君は偉いね。大体の人がオフになんかしないのに……じゃあ、次はそのまま戦闘チュートリアルだよ?」
「お、おおう……」
痛みは徐々に引いて来ている。
だが、精神的には結構負荷が大きいのだが、マイさんはそのまま 武器を持つと裏庭につながるであろう扉を開いた。
「はいこれ持って」
「ほわっ!?」
マイさんは扉の隣に乱雑に置いてある鎧を俺に投げ渡すと、そのまま外へ。
「……ははっ、このまま戦闘訓練って……大丈夫かな俺……」
《…続く》
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