一方、ヤヨイを連れたリュウは仮拠点となっている漁師小屋に到着した。
「おーい。入るぞ」
中に入ると、未だに落ち込んだままのミライとそれを宥めるミウ、そして反対の隅で縮こまっているゲンブだった。
「あれ?リュウ・・・ヤヨイどうしました?」
「姫が海に落ちそうになって、代わりに落ちた。すまんがこのバカ頼む」
「わ、分かりました・・・」
リュウはヤヨイを乱暴に放り投げた。
ぐぺっ!と声を上げたヤヨイはすぐに「ぐへへ、リュウに、リュウに投げ飛ばされて・・・ぐへへ・・・」とにやけた表情を浮かべていたが、リュウはそれを無視した。
「で、ゲンブのあれは何だ?」
「あ、皆さんが散策に行った後にお兄ちゃんにちょっとお説教したらあんな風になりました」
「うぅ、ミウ・・・」
そうとうきつく言われたのか、ゲンブは図体がデカいのに縮こまって暫くは動かないだろう。
「全く。面倒な兄を持つと妹が苦労するな」
「いやぁ、変わった妹を持つとお兄ちゃんが大変ですねー」
リュウとミウは、ハハハ、と互いに笑い、互いに溜息を吐いた。
「おーい、リュウ」
するとそこへ、擬人化したハクがやって来た。
「ハク、どうした?何かあったか?」
「いやぁ、何かあったと言えばあったんだけどー、決して悪い方向では無いというかなんというか、これを非常事態とは言えないけどどうも面倒というかなんというかー」
「おい、ハッキリ言え」
リュウはガシッとハクを頭を掴んで自分の目線まで近づける。
「とりあえず、説明しづらいから来てよー」
「・・・分かった。という訳だミウ、悪いが後頼む」
「あ、はい。分かりましたー」
ハクを頭の上に乗せて、リュウはカンナ達との合流を目指す。
「ハク、しっかり掴まってろよ。怪速!」
「ふぎゃああああ!速いよリュウー!」
暫くしてリュウはカンナ達の所へと到着した。
「ふぎぇぇぇ・・・」
ぐったりしたハクを乗せたまま、カンナの元へと近寄る。
「リュウ、来たか」
「おいカンナ、何かあったか」
「・・・ん」
カンナが指差す方向にいたのは、
「・・・(ジーッ)」
「・・・」
「・・・(ジーッ)」
「・・・」
「・・・(ジーッ)」
サクノと、海面から顔を出した少女が互いを見詰め合っている姿だった。のちにその少女が人魚だとリュウは知らされる。
「・・・(ジーッ)」
「・・・」
「・・・(ジーッ)」
「・・・」
「・・・(ジーッ)」
両者共に未だ見詰め合う。
「なあ、これどうなってんだ?」
「こっちが聞きたい」
カンナはリュウからハクを回収して腕に抱き抱える。
「・・・(ジーッ)」
「・・・」
「・・・(ジーッ)」
「・・・」
「・・・(ジーッ)」
「なあ、これいつまで続くんだ?」
「サクノが飽きるまでだ」
「マジかよ・・・」
周囲を見てみると、ミヤビとカザミは諦めて、座り込んでお茶を飲んでいた。キジャは単独で散策しているとのこと。
「ふう。お茶が美味しいわ~」
「うむ。そうであるな」
「リュウ~、あんたもこっち来なさいよ~」
「・・・ああ」
呆れたリュウはミヤビとカザミに混じって茶を飲む事にした。
「・・・(ジーッ)」
「・・・」
「・・・(ジーッ)」
「・・・」
「・・・(ジーッ)」
この後、サクノと人魚の少女の見詰め合いは数時間にも及んで続いたという。
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