#3
閉鎖された室内の中で、辺り一面には同じ服装に身を包み、ノートのようなものに必死に書き込みを続ける人で埋め尽くされている
部屋の前方では、初老の男性が分厚い本を片手に黙々と数式のようなものを唱えていた。
ここは、まさに学校であった。
しかし、イホンリが知る学校のそれとは違っていた。
まったく見覚えがないのだ。
建物自体見覚えがないし、見渡してみても周囲の人間に顔なじみは見当たらない。
自分含め周りの生徒と思われる人たちが身に着けている服装であっても初めて見るものだ。
まぁそれ以前にいきなり瞬間移動のような形で、こんな場所に来たこと自体がおかしいのだが。
イホンリの持つ能力である「スティール」でもそんな力は使ったことはなかった。
急な展開に頭がついていかず、冷静に状況を整理しているとふと声がかけられた。
「どうしたん?」
声の発せられた左隣を見てみると、ニヤニヤしてこっちを向いている顔があった。
もちろん知らない顔だ。
「?」
急に声をかけられたことによる焦りとわけのわからない状況にどうしたものかと返答に困惑していると、
隣の席に座る男の表情も少し困惑した表情に変わっていた。
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「まじかよ!」
男は手を何度も叩きながら、笑い転げる。
あれから訳のわからないまま時間を過ごし、今は放課後。
ついさっきまでたくさんの生徒で埋めつくされていたこの教室も現在では少数しか残っていない。
放課後になり、先ほどの左隣から話しかけられた男に捕まったイホンリは、しょうがないのでしぶしぶ事の次第を打ち明けてみた。
元いた世界のこと、急にこの場所にきたこと、この場所に全く見覚えがないということ。
確かに異常な状況だとは思うが、そこまで笑い転げることだろうか。
ぐはははと男は声を上げ、いまだに笑っている。
「それはすごいな!」
ようやく落ち着いたのか、男は目にたまった涙を払いながら声を上げる。
「まぁね……」
「じゃあ今までの俺の知るイホンリはどこいったんや?」
「さぁね……。まぁ少なくとも俺はお前のことは知らないよ」
男は顎に手を挙げながらまじかよと呟く。
イホンリもそれは俺のセリフだよと言いそうになるが、寸前でやめた。
つまりはこちらの世界で生きているイホンリがいて、俺はそのイホンリと入れ替わったというわけか?
いまいち現実的ではないが、そう考えるのが一番合っているような気がしてきた。
「君はこの世界の僕と仲が良かったのか?」
笑い転げていた先ほどとはうってかわって、すっかり神妙な面持ちになっていた男に質問してみる。
すると、いや?と男は言った。
「正直あまり話したことないな。面白い奴じゃなかったし」
そういうと男はげらげらと笑った。
なんじゃそりゃ
なんとも言えない答えに、これまた返答に困っていると、男が急に顔に近づけてきた。
「でも、今のお前にはすごい興味もった!これから仲良くしような!」
そういって男はイホンリの肩に手を乗せた。
「俺の名前は晴稀!よろしく!」
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