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ふたりの代わりに異を唱えたのは、表の気弱な青年だった。
「ちょ、ちょっと待って下さい長老」
その場にいる全員が、青年へと視線を向ける。
「何じゃ?」
「い、いくら何でも余所者と住まわせるなんて……何かあったらフリードの身が危ないのかもしれないんですよ?」
危険人物扱いに、ウンウォルは眉ひとつ動かさず青年を見つめ続ける。
「そんな事はわかっておる。じゃが本人がこの町に住まわせたいと言う以上、それぐらいのリスクを背負って面倒を見てもらわんとのう」
「そんな……」
「して、お主らの返事はどうじゃ?」
長老がふたりに対して再び問うと、彼らは互いに顔を見合わせた。魔法使いは困ったように、男は無表情に。
「私は、君が良いと言うのであれば構わないが」
「それは俺も、だけど……」
フリードは口ごもる。本当に良いのかと聞きたかったが、それは言ってはならないような気がした。
彼は既に了承した、ならばそれに対して確認を取るのは失礼ではないか。『責任を取る』などと言った自分が足踏みしてどうするのかと、フリードは憂いを払って長老に向き直る。
迷いの無い、空き抜ける青空の目で。
「わかりました。彼の世話を、同居を込みで引き受けます」
長老はその返事に、ホホッと笑った。裏腹に、眼鏡の青年は眉を寄せて俯く。
「では、あちらの長老にもそう言って挨拶をしてくるがよい」
「はい、ありがとうございます」
「……世話になる」
フリードがお辞儀をすると、合わせるようにウンウォルも長老に一声かけた。うむ、と長老は満足そうに頷く。
彼らが踵を返すと、俯き加減なままに目を向ける青年の姿があった。
「フリード、本当に大丈夫……?」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
フリードがにこりとすると、今度は青年はウンウォルへと話し掛ける。
「き、キミ、一応長老が良いって言ったから認めるけど、問題は起こさないように気を付けてよ……?」
「……なるべく心掛けるようにはする」
「フリードぉ……」
「あーうん。ウンウォル、そこは素直に『うん』って言っとこうか」
「……わかった、気を付ける」
正直だなぁと、フリードは苦笑いを浮かべる。
フリードとウンウォルはまだ何か言いたげな青年を尻目にまたねと手を振ると、そのままの足でハーフリンガーの長老宅へと向かった。
「ウンウォル、ピザ焼けたかどうか確認してくれる?」
「わかった」
「焼けてたら取り出して、八等分にカットお願いできる?」
「ああ」
フリードはフライパンをかき混ぜながらウンウォルへ指示を出す。ウンウォルはチェスの駒を動かす手を止め、窯の中を覗き込む。
ハーフリンガーの長老は、同居の条件を提示すると快くウンウォルを受け入れた。フリード曰く、ハーフリンガーはおおらかな性格が多く、それは長年のドラゴンとの共存で培われたらしい。
ふたりは着々と夕食の準備を進めていき、机には昼食に負けず劣らず鮮やかな料理が並んでいった。
「しかし、いつもこんなに作ってるのか?」
「まさか、ひとりなのに」
「いや、品数の話で……」
「ああ普段はもっと簡単だよ」
一食抜いちゃう事もあるしねとフリード、それなら私もよくある事だとウンウォル。そんな会話をしながら、彼らは席に着いて手を合わせた。
食後はようやく約束のチェスの手解きを始めるフリード。まだ駒の動きがうろ覚えなウンウォルに対して、フリードは実践を交えながら局面の動きを覚えさせていく。
ウンウォルは本と盤上を交互ににらめっこしながら、片肘をついて唸る。
「なかなかに、ややこしいというか難しいというか……」
「最初は仕方ないさ。因みに今なら俺をチェックできるんだけど、わかる?」
「えっ、ええと……?」
助言を受けて駒をひとつひとつ指差し確認していく彼に、フリードは微笑んだ。
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