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そうしている内に夜も更けて、すっかりのめり込んでいた彼らはふと時計を見て驚く。
「あ、いつの間にこんな時間……」
「集中していたしな……」
「チェスはこの辺にして、そろそろお風呂にでも入る?」
「風呂……?」
風呂という単語に疑問符を付け加えるウンウォル。フリードはその反応に嫌な予感がして、恐る恐る問いかけた。
「まさか、お風呂を知らない訳じゃ……」
「知らない訳ではないが、馴染みがあまりなくて……」
彼は気まずそうに顔をそむける。その横顔を、フリードはまじまじと見詰めた。そのようなことを言う割には、彼の顔や髪はそれほど汚れているようには見えない。近くにいても、臭いも気になるようなものではなかった。
恐らく体を洗う習慣が無い訳ではないと踏んで、フリードは聞いてみた。
「普段はどうやって体を洗ってるの?」
「池や川といった水辺で、だな」
なるほど、と心の中で頷く。
「昨日も森の中で、綺麗な湖があったからそこで」
「確かに、ミナル森にはそういう湖が点在してるしね」
それで妙に綺麗なのかと納得する。
「まぁ折角だし、お風呂にも入りなよ」
「……良いのか?」
「勿論。着替えは……俺の服入るかなぁ……?」
フリードはウンウォルの袖から見えている逞しい二の腕を目にして首をかしげた。並んだ時に縦にも横にも体格差があるのを思いだし、着た姿を想像して悩む。上はローブ系ならともかく下はズボンが悲鳴を上げるかもしれない。
「まぁ、キツかったらまたその自前の服着て貰ったらいいから」
それで明日は君の服を調達しにいこうと言われ、ウンウォルは「はぁ……」とわかっていなさそうな返事をした。
ウンウォルが服を脱いで浴室を開けると、飛び込んできた湯気が彼の視界をサッと奪った。だがすぐに見えるようになり、彼は中に入って木造の浴槽をじっと見下ろす。
「(こんなもの、いつぶりだ……?)」
張られた湯船にそおっと手を入れる。熱い。が、入れない温度ではない。ウンウォルは足先からゆっくりと体を沈ませていった。
全身浸かってすぐに、浴室の外からウンウォルと呼ぶ声。彼が何だと返すと、着替えはここに置いとくねと言って去るフリード。
ウンウォルは再び体の力を抜いて、浮力に身を委ねた。
黒い髪は湯船の中で扇状に広がり、ゆらゆらと揺らめく。体を包むお湯は温かくてベッドの中のようで、睡魔を誘った。
「(そういえば、あまり寝ていないんだったな……)」
ウンウォルはフリードと出会う直前の事を思い起こす。
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