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ぱちりと、ウンウォルは目を覚ました。窓からはカーテン越しにうっすらと朝日が差し込んでいる。まだ寝惚けた頭で、彼はゆっくりと上体を起こした。
「(ああ、そうか……昨日は……)」
色々な事があった末に、結局自分が折れて彼のベッドを借りたのだったと思い起こす。服はやはり窮屈だったので、寝る前に自前のに着替えた。
ベッドから降りて部屋から出ると、寝床を譲った当の本人が机につっぷしていた。その背中はゆったりと上下しており、彼がまだ夢の中なのが窺える。時間帯は早く、今すぐ起こす理由も無い。
ウンウォルはそっと顔を覗き込んだ。やはりまだ寝ている。
「(一緒に生きる理由を探そう、か……)」
寝顔を眺めながら、彼はふと昨日の出来事を思い起こす。
あんな風に手をさしのべられたのは初めてだった。この地域が世界の混沌から逃れていたからとはいえ、この青年はその中にあろうときっと染まりはしなかっただろう。自ら暗雲を裂く陽光となって、自分にしたように人々の心に光を差すのだろう。
いつか、彼がこの先自分自身を犠牲にしてまで誰かを助けようとしそうで、ウンウォルは不明瞭な未来に不安を覚える。その時に彼を止められる者は、彼の側に存在するのだろうか。
「(……人がどうなるかなんて、心配をする立場でもないな……)」
こんな事を考えてしまうのは、時間をもて余しているからだと適当な本を手に取る。
そして、向かい側の椅子に静かに座り、彼が起きるまでの間とウンウォルは読書を始めた。
ぱら、ぱら……。
ただ、本を捲る音と、寝息が部屋に響く。暫くすると遠くからぽつぽつと人の声が耳に入るようになり、町の生活の気配が感じられ始めた。まさかこの町で二度同じような音を聞くようになるとはと、ウンウォルは密かに耳を傾ける。
「……ん」
町の音に釣られてか、フリードの方から小さな声が聞こえて、ウンウォルは彼を見た。身動ぎをしてゆっくりと顔を上げる彼は、対面する人物を視界に入れるなり「あ」と声を発して、寝ぼけ眼で数度またたく。
「おはよう、ウンウォル……」
「ああ、おはよう」
挨拶を交わすと、同じ姿勢で凝り固まった体をほぐすように、大きく伸びをするフリード。
「大丈夫か?」
「うんまぁ……ぼちぼちかな」
彼は芳しくない面持ちで、正直に好調ではない事を告げる。首も揉みほぐしながらコキコキと左右に傾けてから立ち上がると、気だるそうに洗面所へと歩いていった。
実はその背景には前日の軽度の寝不足やモリョンを猛ダッシュで追い掛けた出来事が堪えていたのだが、そんな事など知らないウンウォルは、彼の後ろ姿にやはり折れるべきではなかったなと小さく唸った。
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